「I Don't Want to Be Alone〜1人になりたくない」
ラブロマンス
おすすめ!
離愁
Le Train
監督:ピエール・グラニエ=ドフェール
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン/ロミー・シュナイダー/モーリス・ビロー
製作:1973年フランス=イタリア
Source:VHS (8/21)
Impression
これぞまさしくフランス映画といった哀愁漂うラブロマンス。しかも戦争がモチーフである。極限状態に置かれた男女が運命の恋に落ちる。観ているものをハラハラさせ、心を揺さぶる場面を多々用意し、思いもかけないラストシーンへと導く作品である。
私が最後に感じたのは"やるせなさ"。戦争映画が苦手な私にとって辛いシーンがやはり登場した。列車が上空から爆撃されるシーンは、しばらくは、いやいつまでも忘れられないことだろう。むごたらしさに悲しみと怒りを感じた。それが戦争の現実だったのかもしれないが。
でもそれにもまして、今回私の頭の中に刻み込まれたのは、主人公2人の束の間ながら深い深い愛情だ。運命の出会いを果たし、追い詰められた者だけが知る不安と緊張感の中で、好意と信頼を寄せ合う。特に女性であるアンナの心情には共感できる。ユダヤ人であることで、何をしていても生きた心地がしなかったのではと思う。そんな彼女が生きていることを実感できたのは、ジュリアンへの思慕。疎開列車で数日を共にし、誠実で優しいその人柄に愛とぬくもりを求めた。
ロミー・シュナイダーを何十年ぶりかで観たが、こんなに美しかったかとつくづく思った。しっとりとした雰囲気を持ちつつも凛としている。状況が状況だけに、化粧もしていない、同じ服を着続けているといった設定なのに、それまでのアンナの苦渋の人生を滲み出した美しさが感じられた。
妻子を愛しながら、疎開列車で別の女性と恋に落ちる男性を演じたジャン=ルイ・トランティニャンの繊細さもよかった。近眼のため兵役を免除されたラジオの修理工で、今で言う草食系なのかもしれない。優柔不断な優男といった見方もできるけど、私は優しくて気の小さい、むしろどこにでもいる男性なのではないかと思う。
さて、本作は実は以前に観ている。あまりにも昔すぎてラストシーン以外のストーリーをほとんど忘れていたくらいだ。まだ20代の頃だった。1988年9月10日(土)。1988年は180作も観ているが、この
離愁は36位を獲得している。では感想を記そう。

フランスの田舎をゆっくりと走る疎開列車。戦争中とはいえ、ひっそりと美しく広がる緑の村。夏の川。列車に乗り合わせた人々の様々な人生と思いが、前半の淡々とした雰囲気だった。セピアで飛び込む戦争のドキュメントと音楽が、風景とは対照的にこの映画のゆくえを暗示していた。
しっとりとした魅力にあふれるロミー・シュナイダー。悲しい運命に怯えながらも、潔く存在するだけに、その美しさが浸みてくる。ユダヤ人であることと、妻子ある男を愛し、いずれ別れなければならない胸の内。どんなに苦しかっただろう。
クライマックス。必死で知らぬ顔をした彼女に、真実の愛は正直だった。男は思わずいとしさに手をさしのべてしまった。このシーン、2人の間に言葉はない。だからこそ、彼女の涙の重さ、愛の力が伝わり、私の印象に強く残ってしまった。

確かにフランスの夏景色は筆舌できぬほどすばらしい。素朴なのだ。戦争など何も関係ないように、青々と生い茂る草やのどかな動物たち。田舎の風景に心癒された。なぜ疎開列車はこういう田園地帯を通って別の街まで行くのだろうかと、何度も不思議に思った。
そう、ほとんど列車だけが舞台といってもいいこの作品では、列車に乗り合わせた人々の人生も垣間見れる。どんな事情を抱えているのか詳しくは語られないが、それぞれが迫り来るドイツ軍に怯え先の見えない将来に不安を感じつつも、楽しく列車の旅を過ごす。夏の川辺での時間。しかしそれも破壊される。楽しい時間を過ごし、列車に戻って笑い合う人々。みんな笑っていた。そこへ重なるのが、笑うヒトラー。異常に感じた瞬間、爆撃が笑いを吹き飛ばした。
88年にも書いているように、何度も何度も挿入される戦争のドキュメンタリー映像と不安を煽る音楽に心をかきむしられる。正直、とても嫌な気持ちになった。
終着駅に着いても、1人になりたくないと言ったアンナ。いつかは別れなければならないことを知っていても、少しでも長く愛するジュリアンと一緒にいたかった。ジュリアンはアンナを妻ということにした。でも、彼が妻と生まれた子供に会いに行ったとき、何も言わずに彼女は消えた。バスに乗りうつむいたアンナの美しさと切なさ・・・
たぶんジュリアンは、その後妻とはうまくいかなかったのではないだろうか。妻と長女、長男を守りながらも、心はずっとアンナに向いていたのではと。妻もそれに気づいていただろう。
そしてラストシーンへ。思いもかけぬ場所での再会。アンナが持っていた身分証。ジュリアンの妻であるということ。ジュリアンがとぼければそれで彼と家族は救われた。彼もそうするつもりだった。アンナも巻き込みたくないからと、彼の顔を見ないようにしていた。それなのに・・・
ジュリアンは出て行こうとして静かに引き返す。アンナの頬に触れる。2人とも3年もの間、お互いをずっと思ってきたのだ。アンナは抵抗運動をしていたらしい。ジュリアンは共犯とみなされてしまった。それでもジュリアンは自分にうそをつけなかった。それほど深くアンナを愛していたのだ・・・
極限状態だったからこそ燃えた愛だったのかもしれない。それでも、3年も会わなくても思い続けられるほど強い絆で結ばれた2人の愛には感服する。これほどまでに深い愛があっただろうか。ジュリアンの胸に崩れ落ちて涙するアンナの姿は、絶望の中で救われた安堵の涙だったのかもしれない。過酷な状況をくぐり、これからさらに死という非情な運命が待っているとしても、愛だけは自分を裏切らなかった。それだけで彼女は救われたはずだ。
すばらしい作品である。ただ、むごいシーンに耐えられなかったことと、ドキュメンタリー場面の嫌な印象が強かったこと、さらにラストシーンで感じ入るものはあったものの泣けなかったことが本作のマイナス点となった。

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