2000年10月29日更新 | ホームページへ戻る

株式交換・移転の資本連結手続クイック解説


 2000年8月31日に日本公認会計士協会から「株式交換及び株式移転を利用して完全親子会社関係を創設する場合の資本連結手続について」(会計制度委員会研究報告第6号)(以下「研究報告」)が公表されました。

 これは99年の商法改正により新たに設けられた株式交換・移転の制度を使った場合の連結決算における会計処理をまとめた報告書ですが、現行の連結原則にうまく当てはまらない処理も含まれ、また、比較的自由な会計処理が認められている合併会計との均衡上からも、強制力を持たない研究報告としたようです。

 この報告書では、株式交換・移転が企業結合に該当する場合において、「取得」と「持分の結合」に分けるための判定基準を示し、それぞれパーチェス法持分プーリング法を適用することとしています。企業結合に該当しない場合(既に子会社となっている会社を完全子会社とするような場合)の処理も定めています。

 現在企業会計審議会で合併会計も含めた企業結合会計を審議していますが、この報告書は単に連結処理の指針というだけでなく、企業結合会計の観点から検討しているので、参考になるのではないかと思います。

 ここではこの研究報告の内容を簡単にまとめてみました。内容を網羅したものではなく、また、厳密さよりわかりやすさを優先している部分、よく理解できなかった部分もありますので、実務の参考にする場合は、研究報告原文を参照して下さい。


目次
1.定義
2.「取得」と「持分の結合」の判定と会計処理
3.パーチェス法による資本連結手続
4.持分プーリング法による資本連結手続
5.企業結合に該当しない完全親子会社関係の創設
6.完全親子会社関係創設の類型と資本連結手続
定義集

1.定義

 商法における用語として、株式交換制度株式移転制度完全親会社完全子会社、が定義されています。また、企業結合会計における用語として、企業結合取得逆取得持分の結合、が定義されています。(第4−11項)

 それぞれの定義については用語をクリックして下さい(本文に戻るときはブラウザの「戻る」ボタンを使って下さい)。


2.「取得」と「持分の結合」の判定と会計処理

 まず、株式交換または株式移転が、企業結合に該当する場合を検討します。

 企業結合には取得持分の結合がありますが、そのどちらに該当するかによって適用される会計処理が異なります。

 「取得」と判定された場合には、株式交換・移転を資産の購入と同様に考え、パーチェス法を適用します。「持分の結合」と判定されるときは、企業結合前会社の株主にとって、企業結合前に存在していたリスクと便益の共有が継続し、結合前会社のそれぞれの事業が以前のように継続していたと考え、持分プーリング法を適用します。(第13項)

 つまり、

取得 → パーチェス法
持分の結合 → 持分プーリング法

となります。

 そこで、「取得」と「持分の結合」のいずれに該当するかを判定することが必要となりますが、多くの企業結合では、取得会社を識別することが可能です(したがって取得と判定される)。(第13項)

 持分の結合と判定されるためには、結合後会社のリスクと便益を継続的に共有することと取得会社を識別できないことが条件となります(「持分の結合」の定義参照)。研究報告は「リスクと便益を継続的に共有すること」の具体的な判定基準を定めています(第14−15項)。この研究報告の公開草案では、数値基準による判定方法が示されていましたが、現時点では適切でないということで、数値基準は削除されています。

 持分の結合と判定した場合には、その根拠を開示します(第16項)。 

 次に取得会社を識別する判定基準を定めています(第17−18項)。

 株式交換の場合、完全親会社は完全子会社の議決権の100%を所有するので、原則として完全親会社は完全子会社の支配を獲得します。(第17項)。つまり、完全親会社は完全子会社を取得したことになります。

 しかし、議決権取得をもって取得会社を直接識別することが経済的実態に合わない場合−逆取得となる場合−があります。そのような場合には次のような事項等を総合的に考慮して識別します。(第17項)

 複数の会社が株式移転を使って完全親子会社関係を創設する場合には、どの会社も新設される完全親会社の100%子会社となり、いわば兄弟会社となります。したがって、取得会社の識別を議決権で決めることはできません。そこで次のような事項等を総合的に考慮して識別します。(第18項)

 これでもまだ取得会社の識別が困難な場合には次の事項を考慮します。


3.パーチェス法による資本連結手続

 この報告書においてパーチェス法とは、被取得会社の資産・負債について取得日現在の公正な評価額(つまり「時価」)で連結貸借対照表に計上し、被取得会社の純資産額と投資原価の差額連結調整勘定として連結貸借対照表に計上する方法です(第19項)。つまり

投資原価−被取得会社の純資産(時価で評価替する)=連結調整勘定

となるのがパーチェス法です。

 被取得会社の損益計算書については、取得日から連結損益計算書に取り込みます(第19項)。

 通常の現金による会社買収では、投資原価=現金支出額、となり、投資原価の算定について特に議論する必要はありませんでした。しかし、株式交換・移転は現金支出を伴わない企業結合なので、投資原価の金額をどのように決めるかが問題となります。この点を除けば、パーチェス法による資本連結手続は、連結原則の資本連結手続と同じです(第20項)。

 以下、完全子会社が被取得会社となるケースで説明します。この場合、

投資原価(完全子会社の株式の取得原価)=取得の対価+取得に直接要した費用

となります(第21項)。

 完全子会社の株式の取得の対価は、完全親会社となる会社の発行する株式(自己株式を含む)です。これに市場価格がある場合は、株式交換の重要な条件が合意及び公表された日の直前数日の市場価格に基づいて測定します。株式交換の場合で、完全親会社となる会社の株式に市場価格がない場合には、完全子会社となる会社の方の市場価格(期間は同じ)から算出します。(第21項)

 株式移転の場合には、完全親会社となる会社の株式の時価は通常存在しないため、原則として、完全子会社となる会社の株式の市場価格から算出します。(第21項)

例:
S1社(取得会社)とS2社(被取得会社)が共同して株式移転を行い、完全親会社P社を設立する。被取得会社S2社への投資の投資原価は、S2社の株式の市場価格から算出する。

 取得の対価を測定する基準日が、株式交換・移転の日ではなく、株式交換の重要な条件が合意及び公表された時点であることに注意して下さい。(この点の背景説明は第53項参照)。

 取得に直接要した費用については、研究報告にいくつかの例示がなされています。株式の発行費用、登記費用、専門家への報酬などです。(第21項)

 連結上の投資原価は以上のようにして算定されるわけですが、完全親会社の個別財務諸表上では、これと異なる金額で子会社株式が計上されることがあります(むしろ異なる方が普通)。つまり、完全親会社の個別財務諸表上では、多くの場合、商法及び税法の規定に従い、完全子会社となる会社の簿価ベースの純資産額に基づいて親会社の株式が発行されるため、その発行価額(=子会社株式の計上金額)と、発行される株式の時価ベースで測定される連結上の投資原価とは異なる金額となります。

 この差額をどうするかが問題となりますが、研究報告では「子会社株式評価差額」として資本準備金に増減するとしています(第22項)。資本準備金というのは商法上の概念でもあるので、少しおかしな処理ではないかと思いますが、連結財務諸表では「その他の資本剰余金」という科目はないのでしょうがないのかもしれません。

(研究報告設例1より。税効果は考慮しない。):
 P社はS社を株式交換により自社の完全子会社とした(それ以前にはS社の株式は保有していないものとする)。連結上の会計処理はパーチェス法を用いるものとする。
 株式交換日におけるS社の簿価ベースの純資産は、1,200百万円であり、P社の個別財務諸表上はこの金額を、S社株式の取得原価、すなわちS社株主に対するP社株式の発行価額とした。P社はこの株式交換により、6百万株(額面50円、時価250円)の株式を発行した。また、資本金の増加額は300百万円(=額面50円×6百万株)であった。個別財務諸表上の仕訳は以下のとおり。

(借方)
S社株式 1,200百万円
(貸方)
資 本 金  300百万円
資本準備金 900百万円

 連結上の投資原価は、発行したP社株式の時価ベースの金額1,500百万円(=時価250円×6百万株)となる。したがって、個別で計上された投資原価(S社株式)1,200百万円を連結仕訳で時価の1,500百万円に修正する必要がある。

(借方)
S社株式 300百万円
(貸方)
資本準備金 300百万円

 この処理以外は、通常の資本連結手続と同じである。つまり、子会社の資産・負債を時価評価したうえで、子会社の資本(資産・負債の時価評価後)と親会社の投資原価(S社株式の金額1,500百万円)とを相殺し、差額を連結調整勘定に計上する。

 なお、株式交換・移転の個別財務諸表上の会計処理については、研究報告の第57−60項で簡単に解説されています。


4.持分プーリング法による資本連結手続

 持分プーリング法とは、企業結合が生じた事業年度において、その結合が事業年度のどの時点で生じたかにかかわらず、結合当事会社の財務諸表を合算する方法です。会計方針を統一するための所要の修正等はありますが、資産・負債の評価替も、連結調整勘定の計上も行われません。(第26−27項)

 持分プーリング法を用いる場合の投資原価(持分が合算されただけとみなすのに原価という言葉を使うのは違和感がありますが)は、完全子会社となる会社の株式交換・移転の日の簿価純資産額で測定します。当該取引の関連費用はすべて発生時に費用処理します(パーチェス法の場合に直接関連費用を投資原価に含めるのと対照的)。(第28項)

 資産・負債の評価替えを行わず、完全子会社となる会社の簿価純資産額で投資原価を測定するので、完全子会社への投資と完全子会社の資本は金額が一致し、相殺消去差額は生じません。

 なお、完全子会社が子会社・関連会社を所有している場合、「簿価純資産額」というのは完全子会社の連結簿価純資産であると思いますが、研究報告では、子会社の個別財務諸表の簿価なのか連結財務諸表の簿価なのかという点について、はっきりとは書かれていないようです。(ただし、第44項で株式移転のケースについて「完全子会社の利益剰余金等」を「完全子会社の連結財務諸表上の連結剰余金」と読み替える規定があります)。

 完全親会社の資本勘定は次のように処理します(第29項)。

  1. 完全子会社の払込の額相当額(資本金と資本準備金の合計相当額)のうち完全親会社の個別財務諸表上の増加資本金額(株式交換の場合)又は資本金額(株式移転による場合)を(増加)資本金とする。
  2. @の払込の額相当額から(増加)資本金とした金額を控除した金額を(増加)資本金とした金額を控除した金額を(増加)資本準備金とする。
  3. 完全子会社の個別財務諸表上の未処分利益、土地再評価差額及び有価証券評価差額(以下「利益剰余金等」という。)は、そのまま引き継ぐ

したがって、完全親会社の個別財務諸表における(増加)資本勘定が上記金額と異なる場合には、資本連結手続上、上記金額となるように個別財務諸表上の(増加)資本勘定を修正します。(第29項)

 つまり、連結財務諸表の資本の部の各勘定が、資本結合前の各社の資本の部の各勘定(会計方針を統一するための所要の修正等が済んだ後の金額)の単純合算になるように修正するということだと考えられます。ただし、資本金については完全親会社の資本金と一致しなければならないので、資本準備金で調整するという趣旨だと思います。

 ただし、「資本準備金」は商法上の概念でもあるので、本来は、これも完全親会社の資本準備金と一致させるべきであり、差額は「その他の資本剰余金」とする方がよいのではないかと思います(ただし連結原則の科目にはない)。

 また、第29号の3番目の項目については、完全子会社の利益剰余金等が、未処分利益、土地再評価差額、有価証券評価差額だけから構成されているケースを想定しているか、あるいは、未処分利益の中に各種の積立金を含めて考えているかのどちらかではないかと思われます。

 資本連結手続において相殺消去の対象となる完全子会社の資本の金額は、個別財務諸表上の資本の金額(ただし、親子会社間の会計処理の統一及びその他個別財務諸表の修正による損益処理後で税効果考慮後の金額)です。(第30項)

 完全子会社の財務諸表は、連結会計期間の期首から結合されていたかのように連結財務諸表に含めます(第31項)。パーチェス法の場合、完全子会社の損益計算書が取得日以後の分しか含められないのと対照的な処理となっています。
 また、複数期間比較する形式の財務諸表の場合、最初の期の期首から結合されていたかのように連結財務諸表に含めることが望ましいとしています(第31項)。

 このように、完全子会社の財務諸表は連結会計期間の期首以降(複数年度開示の場合は開示対象初年度期首以降)の分を含めるので、結合当事者間の取引は、その取引が株式交換・移転の前であるか後であるかにかかわらず、消去されることになります。(第32項)


5.企業結合に該当しない完全親子会社関係の創設

 以下のような取引は、企業結合に該当しない完全子会社関係の創設です(第33項)。

 このような場合、株式交換・移転の経済的実態に応じて連結原則に準拠した処理又は持分プーリング法に準じた処理を行います(第34項)。


6.完全親子会社関係創設の類型と資本連結手続

 株式交換・株式移転を使った企業再編のスキームには様々な類型があります(企業結合に該当するものもしないものもある)。それらに、これまで述べてきた考え方をあてはめると、連結上どのような処理になるのか見ていきます(第35−46項)。

(1)株式交換制度を利用して子会社でない会社を完全子会社とする場合

 一般的には、完全親会社となる会社が完全子会社となる会社を「取得」したと判定され、パーチェス法が適用されます。ただし、完全子会社となる会社による完全親会社の「取得」と判定され、パーチェス法が適用される場合もあります(「逆取得」のケース)。また、「持分の結合」と判定され、持分プーリング法を適用する場合もあります。

(2)株式交換制度を利用して100%所有でない子会社を完全子会社とする場合

 企業結合の定義には該当しないケースですが、少数株主からの追加取得であり、連結原則に準拠した処理を行います。この場合追加取得した分の投資原価は、パーチェス法の場合(第21項)と同様に測定します(第36項)。完全子会社となる会社の株主に対して発行した株式の発行価額ではありません。

(3)単独完全親会社を設立する場合

 この場合、連結財務諸表の報告主体は完全親会社となりますが、企業集団の経済的実態は株式移転前と比べて全くかわりません。したがって、企業結合に該当せず、また、処理としては持分プーリング法に準じた処理となります(第37項)。つまり資産・負債の時価評価は行わず、連結上の資本は、完全子会社の資本と一致することになります。

(4)共同完全親会社を設立する場合

 この場合も連結財務諸表の報告主体は完全親会社となります。しかし、完全親会社が取得会社になることはありません。一般的には、複数の結合当事者のうちいずれかが取得会社として認識されます。この場合、取得会社に対しては持分プーリング法に準じた処理を行い(つまり資産・負債の評価替えは行わない)、被取得会社に対してはパーチェス法を適用します(つまり資産・負債の時価評価を行い、連結調整勘定を計上する)。(第40項)
 一方、「持分の結合」と判定される場合には、持分プーリング法が適用されます。(第40項)

(5)その他

 その他、「共通支配下にある複数の会社間で行われる完全親子会社関係の創設」、「完全親子会社関係創設後の少数株主からの追加取得」(潜在株主からの追加取得のケース)について、規定が設けられています。

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定義集
(注:研究報告における定義(一部変更)に説明を追加しています)

株式交換制度

完全子会社となる会社(仮にS社とします)の株主の有するその会社の株式(S社株式)がすべて完全親会社となる会社(P社とします)に移転し、完全子会社となる会社の株主(S社株主)は完全親会社となる会社(P社)が株式交換に際して発行する新株(P社株式)の割当てを受けその会社(P社)の株主となることにより、完全親子会社関係を創設する制度である(商法352条1項)。

S社の元株主(いまはP社株主)からみると
 → S社株式を手放し、P社株式の割当を受けた
P社からみると 
 → S社株式を取得し、S社の元株主に自社の株式を発行した
S社からみると 
 → P社の100%子会社となった

完全親会社となる会社(P社)は新株の発行に代えて、その会社の有する自己の株式(P社株式)を完全子会社となる会社(S社)の株主に移転することができる(商法356条)。

株式移転制度

完全子会社となる会社(S社)が、その株主(S社株主)の有するその会社の株式(S社株式)を、設立される完全親会社となる会社(P社)に移転させ、完全親会社となる会社(P社)が設立に際して発行する株式(P社株式)を完全子会社となる会社(S社)の株主(S社株主)に割り当てることにより完全親子会社関係を創立する制度である(商法364条1項)。

S社の元株主(いまはP社株主)からみると
 → S社株式を手放し、新設されたP社株式の割当を受けた
P社からみると
 → 新しく設立されると同時に、S社株式を取得し、S社の元株主に自社の株式を発行した
S社からみると
 → 新設されたP社の100%子会社となった

複数の会社が共同して株式移転を行い、共通の完全親会社を設立することも可能。

例:
S1社、S2社、S3社が共同して株式移転を行い、共通の親会社(P社)を設立。S1社、S2社、S3社はP社の100%子会社となった。S1社、S2社、S3社のそれぞれの株主はP社株式の割当を受けた。

完全親会社

商法352条1項に定義されている用語。ある会社の発行済株式総数(100%)を有する会社。

完全子会社

商法352条1項に定義されている用語。ある会社によって発行済株式総数(100%)を保有されている会社。

企業結合

ある会社と他の会社が合体して両会社に対する持分を結合するか、又はある会社が他の会社の純資産や経営に対する支配を獲得する結果、独立した会社同士が一体となって一つの経済企業体となること。独立した会社とは連結原則上の親子会社関係に該当しない会社をいう。

取得

ある会社(取得会社)が他の会社(被取得会社)の純資産及び経営に対する支配を、資産の引渡し、負債の引受け又は株式の発行により獲得する企業結合。

逆取得

ある会社が他の会社の株式を取得したものの、当該他の会社が結合後会社を支配する企業結合。

持分の結合

ある結合前会社の株主と他の結合前会社の株主が、それぞれの結合前会社の純資産及び経営のすべて(又は事実上すべて)に対する支配を結合し、結合後会社のリスクと便益を継続的に共同して負担及び享受(共同して負担及び享受することを「共有」という)する場合であって、かつ、結合前会社のいずれかが取得会社か識別できない企業結合。


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