2000年6月10日更新 | 論点整理原文(大蔵省ホームページ) | ホームページへ戻る

監査基準論点整理クイック解説

 2000年6月9日に企業会計審議会から「監査基準等の一層の充実に関する論点整理」(以下「論点整理」)が公表されました。当初、「ゴーイング・コンサーン問題」を議論すると報じられましたが、実際には、監査基準や監査実務一般に論点が広がり、公表された報告書も幅広い内容をカバーしています。

 まもなくJICPAジャーナルなどに解説記事が出ると思いますので、正式な解説はそちらを読んでいただくとして、ここでは、論点整理の中から、興味深い点だけをピックアップしてごく簡単に紹介します。なお、全体の構成は若干変えています。


目次

1.監査の目的 (1) 会計基準への準拠性に関する会計士の判断 (2) 証取法監査、商法監査、任意監査等の関係 (3) 監査とレビュー
2.監査の役割 (1) 財務諸表の作成責任 (2) ゴーイング・コンサーン(企業の継続性)  
3.一般基準 (1) 監査人の独立性 (2) 監査人の注意義務 (3) 監査人の守秘義務
4.実施基準・監査実施準則 (1) リスク・アプローチ (2) 監査の質の向上と管理 (3) 経営者確認書
(4) 経営者とのディスカッション (5) 新たな会計基準の導入等に伴う監査上の対応 (6) 不正及び違法行為
(7) 非監査情報との整合性に対する監査上の注意    
5.報告基準・監査報告準則 (1) 監査の概要の記載 (2) 監査意見の記載 (3) 意見差控
(4) 特記事項 (5) 監査報告書の日付及び署名  

1.監査の目的

(1) 会計基準への準拠性に関する会計士の判断

 会計基準への準拠に関して、監査人は実質的な判断を行うべきであり、経済実態に応じた会計処理が選択されているかどうかについても判断すべきであるとしています。

 また、適用すべき会計基準が明確でない場合には、企業が行った会計処理が経済実態を適正に反映しているものであるかについても、監査人は判断すべきであるとしています。

 これらはいずれも、監査人が行うべき判断について従来より一歩踏み込んだ考え方になっています。


 (2) 証取法監査、商法監査、任意監査等の関係

  監査には、証券取引法に基づく監査、商法特例法に基づく監査、その他の法令に基づく監査、任意監査がありますが、監査人が達成すべき保証水準は同一であるとしています。


(3) 監査とレビュー

  諸外国では、レビューは、財務諸表には会計基準に照らして特に修正を要する重要な事項が見当たらなかったことを、限定した手続により消極的に保証する業務であるとされています。したがって、監査とは保証水準が明確に異なるものです。

 これが監査と混同されないようにするため、レビューについては監査基準等の対象としないことが適当であるとし、その指針は公認会計士協会が作る方がよいとしています。

 監査とレビューは保証水準が異なるものであるとすると、監査でもレビューでもない中間監査の位置付けが当然問題となってきます。これについては、論点整理の経緯のところで、「中間監査基準については、監査基準等の審議状況を踏まえ、その内容の見直しについて、今後併せて検討することを予定している」と記されています。

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2.監査の役割

(1) 財務諸表の作成責任

 財務諸表の作成責任は経営者が負い、監査人はその適正表示について意見を述べることに責任を負うという関係が、理解されていないという問題意識から、論点整理は、あくまでも経営者に財務諸表の作成責任があることを監査基準等で明確にする必要があるとしています。


(2) ゴーイング・コンサーン(企業の継続性)

 諸外国においては、ゴーイング・コンサーン(企業の継続性)に重大な懸念を生じさせる状況が認められるときは、ゴーイング・コンサーンを前提として財務諸表を作成することが妥当かどうか、適切な開示が行われているかどうかについて監査人が判断します。

 重大な懸念を生じさせる状況とは、例えば、

などです。 

 論点整理は、我が国ではこのような状況が生じたときの具体的な指針が監査基準等にないため、何らかの方向性を示す必要があるとしています。

 その前提として、ゴーイング・コンサーン(企業の継続性)に重大な懸念を生じさせる状況があるとき、それに関する重要な事項について、財務諸表の注記事項とするなどの制度的手当が必要としています。

 ただし、適切な開示が行われている場合に監査人がさらに補足的な説明を加えるべきかどうかという問題やゴーイング・コンサーンに関する監査人の判断のあり方に関する問題などについては今後さらに検討するとしています。

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3.一般基準

(1) 監査人の独立性

 外形的独立性は、精神的独立性(「独立不羈の立場からの公正普遍の姿勢を保持」−論点整理より−)を確保し、独立性に関する外部からの疑義を排除するための要件として位置づけるべきであり、監査基準等において、別々に切り離して考えることは不適切であるとの立場から、一般基準においては精神的独立性を保持すべきことを謳い、そのために求められる外形的な独立性の内容については法令や、日本公認会計士協会の規則においてより一層明確にされるべきとしています。


(2) 監査人の注意義務

 監査人が払うべき職業的専門家としての「正当な注意」について、この「正当な注意」には、職業的懐疑心をもって監査に臨むべきことが含まれることを明確にすべきであるとしています。


(3) 監査人の守秘義務

 後任監査人との引き継ぎ、親子会社の監査人の連携、ピア・レビューなど、監査人の守秘義務との関係を明確にしなければならない場面が増えてきました。

 論点整理では、このような新しい監査環境等に配慮して、守秘義務のあり方について検討が必要としています。

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4.実施基準・監査実施準則

(1) リスク・アプローチ

 論点整理では、リスク・アプローチ

経営環境等の評価重要性の基準設定を基礎におき、その上で内部統制の有効性に関する評価を監査実施プロセスの機軸とする」

考え方であるとしています。我が国でも平成3年の監査基準改訂のときにとりいれられた考え方ですが、その意義が十分理解されていないという指摘があります。

 会計士協会でリスク・アプローチに基づく様々な指針を作っていますが、論点整理は、監査基準・監査実施準則においても、監査上のリスクの内容や評価手続に関する考え方を明らかにする必要があるとしています。

 そして、リスク・アプローチの考え方においては、経営環境等の評価を徹底し、内部統制の状況を把握することが必須であり、監査計画を立案する段階における内部統制に関する有効性の予備的評価の重要性を改めて明確にすることが必要であるとしています。

 また、監査計画における経営環境等の評価から始まり、内部統制の予備的調査、さらに統制テスト実証性テストへと進むリスク・アプローチに基づく手順に合わせて、実施基準・監査実施準則を設定する必要があるとしています。

 監査手続との関連では、

などの点について、監査実施準則において明確にする必要があるとしています。


(2) 監査の質の向上と管理

 監査の質を向上させ管理する観点から、 

について、検討するとしています。ただし、その際、公認会計士業界内部での品質管理体制の確立への取り組みも視野に入れるとしています。また、

についても整理することが必要であるとしています。

 次に、我が国の監査実務では、文書化が不十分であるとの問題意識から、文書化についてより明確な指示をする必要があるとしています。特に、実施した監査手続や入手した証拠だけでなく、監査意見に至るプロセスでの判断についても文書として残すことが重要であるとしています。

 さらに、新規の監査契約については、

を明記することが必要であるとしています。


(3) 経営者確認書

 経営者確認書は平成3年の監査基準改訂の際に加えられた項目ですが、その性格が曖昧であるという指摘があります。論点整理は、これを、経営者による財務諸表作成上の前提や考え方を確認するための監査手続と位置付けるべきであるとしています。

 したがって、入手できなかったり内容が不十分であった場合には、監査範囲の制限となることを明らかにすべきであるとしています。また、その内容についても見直す必要があるとしています。


(4) 経営者とのディスカッション 

 監査実務の中では、会社側といろいろな場面でディスカッションしますが、監査基準の中ではこのようなディスカッションについては特に取り上げられることもなく、位置づけが不明確でした。論点整理は、会社の経営方針や事業計画に内在するリスク、内部統制に対する経営者の考え方や姿勢など、経営者とのディスカッションによって初めて明らかとなる事項もあると考えられるので、これを重要な監査手続と位置づけることが必要だとしています。

 また、監査役内部監査従事者、その他種々のレベルの担当者とのディスカッションも監査手続として有効であるとしています。


(5) 新たな会計基準の導入等に伴う監査上の対応

 新たな会計基準の導入新たな取引手法の拡大により、監査人には、公正価値や会計上の見積の妥当性などについて、従来より踏み込んだ判断が求められることに対し、監査基準等においても具体的に対応することが必要であるとしています。


(6) 不正及び違法行為

 不正や違法行為については、商法監査で取締役の不正・違法行為にスポットが当たっていることから、経営者による不正・違法行為にどう対処するか議論されることが多いと思われますが、監査における視点としては、不正・違法行為が重要な虚偽記載に繋がる可能性があるかどうかが問題であり、経営者による不正・違法行為に限定する理由はありません。

 論点整理では、一般論として、監査において不正や違法行為(会計処理に影響しないものもある)を発見した場合には、然るべき責任者に報告することが求められるとしています。また、財務諸表の重要な虚偽記載に繋がるものであるか否かを検証し、企業の事後措置を確かめることも必要であるとしています。


(7) 非監査情報との整合性に対する監査上の注意

 企業の開示情報には、監査情報と非監査情報がありますが、論点整理は、監査人は、非監査情報との整合性についても相応の注意を払う旨を明らかにすべきであるとしています。

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5.報告基準・監査報告準則

(1) 監査の概要の記載

 監査報告書における監査の概要の記載について、我が国は諸外国と異なっているとの指摘があり、見直す必要があるとしています。

諸外国では、財務諸表は経営者の責任で作成されていることを記載した上で、

などを記載していることを踏まえ見直すとしています。


(2) 監査意見の記載

 現行の監査報告準則では、監査基準への準拠性、会計方針の継続性、表示の準拠性という3点について意見表明します。しかし、監査意見は本来、財務諸表全体に対する適正性について意見を表明するものであると考えられ、我が国の監査意見の表明方法についても見直す必要があるとしています。

 これと関連して、会計方針の継続性に関し、正当な理由のない会計方針の変更と、正当な理由による会計方針の変更を、同じく限定意見とすることは、投資者に誤解を与えるおそれがあります。論点整理は、正当な理由による会計方針の変更については適正意見とした上で、補足的な説明として、その事実、理由及び影響等を記載すれば足りるのではないかとしています。


(3) 意見差控

 監査報告準則においては、監査手続の限定(重要な監査手続ができなかったこと)により、意見差控となる場合が定められていますが、未確定事項がある場合についての考え方が示されていません。

 未確定事項の存在は監査手続の限定ではありません。米国では、未確定事項が存在しても、監査報告書作成時点で入手し得る監査証拠により判断を行い、適正又は不適正の監査意見を表明することが基本であるとされています。

 我が国でも、ゴーイング・コンサーン問題との関係も踏まえた上で未確定事項に関する考え方を整理し、また、未確定事項があるからといって必ずしも意見差控とならないことを明らかにする必要があるとしています。


(4) 特記事項

  重要な偶発事象、後発事象等で企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにするため特に必要と認めて記載する「特記事項」は、情報提供機能の拡充という趣旨で設けられたものです。しかし、論点整理は、特記事項の性格が不明確となっており、情報提供機能のあり方と併せて、改廃について検討することが適当としています。


(5) 監査報告書の日付及び署名

 監査報告書の日付は、監査人の責任の及ぶ期間に関係する重要な事項であり、法令上の手続との関係も考慮しつつ、実際の監査終了の日を記すことなどについて検討する必要があるとしています。 

 監査報告書の署名については、現在、監査証明省令において、監査法人の代表者に加え、業務を執行した社員の署名が求められています。これに対し、諸外国のように監査法人名での署名が適切であるという指摘と、監査法人名のみでは、業務を執行した社員の責任意識が希薄化するという指摘があります。論点整理は、我が国における適切な方法を検討していくことが必要であるとしています。

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