2000年12月30日更新 | ホームページへ戻る

投資不動産時価情報の開示
国際会計基準第40号の解説


国際会計基準委員会(IASC)から1999年7月に公表された「投資不動産(Investment Property)」の会計処理に関する公開草案は、非金融資産にはじめて時価評価を要求する基準であるとして、わが国でも大きな波紋を巻き起こしました。その後、反対意見を採り入れて、時価モデルと原価モデルのいずれかを選択するという結論になり、国際会計基準第40号として2000年3月に承認されました。軌道修正がなされたとはいえ、原価モデル採用の場合には時価の注記を要求するなど投資不動産の時価の開示を重視する考え方は変わっていません。

投資不動産の会計は現在企業会計審議会の論点の一つともなっています。この国際会計基準(IAS)40号が日本の企業会計に今後どの程度取り入れられるのかはまだわかりませんが、ここでは簡単にその内容をまとめておこうと思います。

なお、このページはIAS40号を網羅的に解説したものではなく、重要と思われる点を抽出して解説したものである点をご了承下さい。


1.投資不動産の範囲
2.投資不動産の認識・当初測定・事後的支出
3.投資不動産の評価(当初認識以降の測定)
4.投資不動産の時価とは
5.振替
6.投資不動産の除却
7.投資不動産に関する開示事項


1.投資不動産の範囲

投資不動産は、「賃貸収益、資本増価(capital appreciation)、またはその両方を目的として保有する不動産」(IAS40号、第4項)と定義されています。資本増価はキャピタルゲインといいかえてもよいでしょう。また、投資不動産からは、物品の製造もしくは販売又はサービスの提供、あるいは経営管理目的のために利用されるもの、及び、通常の営業過程において販売することを目的として保有されるものは除かれます。つまり自己使用資産や棚卸資産は投資不動産には含まれません。

自己使用資産と投資不動産を分けるものは何でしょうか。IAS40号によれば、他の資産から概ね独立してキャッシュ・フローを生み出すのが投資不動産であるのに対し、自己使用資産が生み出すキャッシュ・フローはその資産のみに起因するものではなく、生産やサービスの提供に用いられる他の資産にも起因するものです(第5項)。他の資産から独立してキャッシュ・フローを生み出すという点が、投資不動産において時価が重視される根拠となっているようです。

投資不動産の例がいくつかあげられています(第6項)。

投資不動産に含まれない資産の例は以下のとおりです(第7項)。

投資不動産に含まれるか微妙なものについても検討されています。

自己使用部分と賃貸部分がある場合の扱いについては、賃貸部分を分離して売却できる場合はそれぞれ区分して会計処理します(第8項)。部分的に売却することができない場合は、自己使用部分に重要性がない場合に限り投資不動産とします(第8項)。

不動産の使用者に付随的なサービスを提供する場合があります。この場合、付随的サービスが重要でないときは投資不動産とされます。例えば、オフィスビルで警備やメンテナンスを提供している場合です。逆に、付随的サービスが重要な場合は自己使用資産となります(例:自ら経営するホテル)。(第9−10項)

付随的サービスという点を突き詰めて考えていくと、必ずしも投資不動産と自己使用資産とを完全には分けられなのではないかという気がします。つまり、不動産を事業活動の道具と考えるのか(その場合は自己使用資産)、何もしなくても勝手にキャッシュ・フローを生み出してくれる資産とみるのか(その場合は投資不動産)、区別がつけにくい場合も出てくるのではないかということです。例えば、駐車場のサービスを投資不動産の重要でない付随的サービスと考えるのか、それとも駐車場経営こそが主であり不動産はあくまで駐車場経営の手段であると考えるのかといった点です。

IAS40号でも付随的サービスが重要かどうか決めることが難しい場合があり、判断を要することを認めています。このような場合企業は、投資不動産に該当するかどうかの判断基準を定め、それを注記することが求められます。(第11−12項参照)

連結グループ内で不動産を賃貸借している場合がありますが、このような場合も投資不動産として扱うのでしょうか。例えば、親会社が保有し、子会社に賃貸している不動産(子会社は転貸せずに自社で使っている)は投資不動産に該当するかどうかという点ですが、この場合親会社の単独決算では投資不動産に該当しますが、連結決算では該当しないとされます(第14項)。


2.投資不動産の認識・当初測定・事後的支出

このあたりは、自己使用の有形固定資産と同じ会計処理になりますので、ごく簡単な説明にとどめます。

投資不動産が資産として認識されるのは、

  1. 投資不動産に関連する将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ
  2. 投資不動産の原価が信頼性をもって測定できる

場合です(第15項)。

投資不動産の当初測定(記帳価額をきめること)はその原価で行います。取引費用は当初測定に含めなければなりません(第17項)。

認識済の投資不動産に関連する事後的支出は、現在ある投資不動産の当初見積もられた性能を超えて、将来の経済的便益が企業に流入する場合に、投資不動産の簿価に加えられます。それ以外の事後的支出は発生した期の費用としなければなりません(第22項)。わが国における固定資産の資本的支出に関する考え方と同じだと思います。


3.投資不動産の評価(当初認識以降の測定)

企業は会計方針として時価モデル(fair value model)と原価モデル(cost model)のいずれかを選択し、選択した会計方針をすべての投資不動産に適用しなければなりません(第24項)。一部の物件だけ時価モデルを適用することはできないということです。

時価モデルを採用した企業は、すべての投資不動産を時価で評価しなければなりません(第27項)。しかし、企業が投資不動産を取得したときに、その投資不動産の時価を継続的に信頼性をもって算定することができないという明白な証拠があるような例外的なケースでは、企業は原価モデルで評価しなければなりません。ただし、この場合、残存価額をゼロとみなさなければなりません(第47項)。

投資不動産の時価を継続的に信頼性をもって算定することができないような事態は、比較可能な市場取引の頻度が低く、かつ、代替的な時価見積もりが実施できない場合にのみ起こるとされます(第47項)。一旦企業が投資不動産を時価で評価したときは、その後比較可能な市場取引の頻度が低下したり、市場価格の入手が困難となっても、時価で評価し続けなければなりません(第49項)。

時価モデルを採用した場合、投資不動産の時価の変動から生じる利得または損失は、生じた期の純損益に含めなければなりません(第28項)。このような扱いは、金融商品会計における売買有価証券やデリバティブの扱いと同じです。

原価モデルを採用した企業は、原価から減価償却累計額と減損損失累計額を控除した金額で投資不動産を評価しなければなりません(第50項)。つまり、自己使用の有形固定資産と同じ会計処理になり、時価の変動による利得・損失は売却まで損益に影響しないことになります。ただし減損会計が原価モデルでも適用される点には注意が必要だと思います。


4.投資不動産の時価とは

時価モデルと原価モデルのいずれのモデルを採用しても、企業は投資不動産の時価を算定することが必要となります。それでは投資不動産の時価とはどのようなものなのでしょうか。

IAS40号において時価(公正価値 fair value)は以下のように定義されています(第4項)。

取引の知識がある自発的な当事者の間で、独立第三者間取引条件で資産が交換される金額

これは金融資産の時価の定義と同じです。欧米の会計基準における公正価値の定義として一般的なものだと思います。

この時価を誰が算定するのかという点に関して、IAS40号は、専門的な資格を持ち、評価される投資不動産の所在地及び種類において経験を有する独立した評価人による評価に基づいて公正価値を算定することを奨励していますが、強制まではしていません(第26項)。

時価は通常市場価格(market value)です。時価は合理的に獲得可能な、貸借対照表日時点の市場において最も成立する可能性が高い価格であり、特別な条件や状況によって増額または減額された金額ではありません(第29項)。また売却や除却の際に発生する取引費用を控除してはなりません(第30項)。

投資不動産の時価は、貸借対照表日における実際の市場の状態や状況を反映していなければなりません(第31項)。過去や将来のある時点におけるものではないということです。

時価の最善の証拠は、同じ所在地や状態にあり、類似の賃貸契約その他の契約に従う同種の不動産の活発な市場における現在の価格です(第39項)。このような価格がない場合、企業は以下のような情報を検討します(第40項)。

最後のものはいわゆるDCF法による不動産評価額だと思います。

時価算定に当たっては、貸借対照表に計上済の他の資産負債との二重カウントを避けるよう注意しなければなりません(第44項)。以下はその例です。

投資不動産の時価には、不動産を改良や増強する将来の資本的支出を反映してはならず、またその支出から生じる将来の便益を反映してはなりません(第45項)。

投資不動産の時価についてIAS40号では、第29項から第46項にかけてかなり詳しく議論しています。


5.振替

投資不動産を自己使用不動産や販売用不動産と明確に区別するためには、振替のルールを定めておく必要があります。IAS40号では以下のように決めています(第51−52項)

いずれの場合も、単に経営者が資産の保有目的を主観的に変えても振替は行われず、何らかの行為が行われてはじめて振替処理するとされています。この点は、わが国の実務のように、保有目的さえ変えればたとえ実態が変わっていなくても、例えば棚卸資産から固定資産への振替が可能だという考え方とは異なります。

原価モデルを採用している場合は、振替を行っても資産の帳簿価額が変わることはありません(自己使用不動産も棚卸資産も原価基準で評価されているため)。しかし、時価モデルを用いている場合には、振替時にどの金額で引き継ぐか、また、引き継ぎ額に差が生じる場合にはどのような会計処理を行うのかが問題となります。

時価評価されている投資不動産から自己使用不動産や棚卸資産に振り替える場合、使用変更時における時価をもって、自己使用不動産または棚卸資産の原価とします(第54項)。これは、投資不動産をその時点で時価をもって処分したと考える処理だと思います。

自己使用不動産から時価評価される投資不動産への振替は少し複雑です。この場合、自己使用不動産は原価評価、投資不動産は時価評価なので、差額が生じますが、これはIAS16号「有形固定資産」における再評価と同様の方法によって処理されます(第55項)。

具体的には以下のようになります。

棚卸資産から時価評価される投資不動産への振替の際の差額は、その期の損益とされます(第57項)。この扱いは、棚卸資産の売却の処理と整合しているとされています(第58項)。

自己建設投資不動産の建設または開発が完了したときの原価と時価の差額は、その期の損益となります(第59項)。建設が終わっただけで損益が実現したとみる処理だと思いますが、若干違和感が残ります。


6.投資不動産の除却

投資不動産の消滅を認識する(貸借対照表から消去する)のは、(1)除却のとき、または、(2)恒久的に使用を取りやめ、その除却から何らの将来経済便益も期待できないときです(第60項)。

投資不動産の除却から生じる損益は、正味の処分代金と資産の帳簿価額の差額であり、損益計算書上の損益になります(第62項)。


7.投資不動産に関する開示事項

時価モデルと原価モデルで共通して要求されている開示事項は以下のとおりです(第66項)。

時価モデルを採用した場合、帳簿価額の増減表の中に以下の項目を示さなければなりません(第67項)。

時価モデルを採用している場合であっても、例外的に原価評価する場合があります。その場合の開示についても定めがあります(第68項)。

原価モデルを採用した場合の開示事項は以下のとおりです(第69項)。

原価モデルでも時価が開示されるため、賃貸収益などの情報と合わせれば、キャピタル・ゲイン(ロス)も含めた投資不動産の利回りが計算できます。会社間の不動産投資の優劣がはっきり出ることになるでしょう。日本の会計基準として時価モデルと原価モデルのいずれを採用するかまだわかりませんが、原価モデルであっても、このような開示が行われれば、投資家にとってはかなり有益な情報が得られるのではないかと考えられます。

【了】


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