監督 山田洋次
原作 野上照代
脚本 山田洋次 平松恵美子
出演 吉永小百合 坂東三津五郎 浅野忠信
日本の太平洋戦争で終戦となった1945年(昭和20)8月15日を、様々な分野で描くことは多くとも、その出発の加害者となった米英戦争宣言の1941年(昭和16)12月8日を描いた作品は少ない。終戦は被害者の立場をも加味し、その戦争責任をあいまいにする。本作品の時代背景は、その12月8日を挟んでの戦争前年の1940年(昭和15)2月から、1942年(昭和17)2月までの2年間が中心となっている。
いつものように、大学教授の父べえ(坂東美津五郎)、母べえ(吉永小百合)と娘2人を囲んでのつましい夕餉。翌日の早朝、父べえが戦争反対を主張しただけで、治安維持法容疑で逮捕投獄される。教え子の山ちゃん(浅野忠信)が何かと支援することになる。そして父べえは2年後獄死する。
戦前の市井の生活を、それは丁寧に丁寧にホームドラマの手法で描き積み重ねる。そしてそこから見えてるくるものが、町内会をも活用する、戦時下の抑圧体制の過酷さだ。時代背景が暗く、作品が楽しくないかというとそうではなく、山田洋次監督は、「男はつらいよ」の寅さん的人物、奈良の伯父さん(笑福亭鶴瓶)を登場させ、ゆがんだ世相を風刺する。原作では、無一文になって岡山かどこかの木賃宿で死んだことになっているが、映画では奈良の吉野で往生したことになっている。多分満開の桜の下だっただろう。母べえに吉永小百合を配したことも、この作品の魅力のひとつだ。コマーシャルにも登場した海水浴でのクロール泳法も楽しませてくれるが、山ちゃんの戦死につながる、伏線にもなっている。
パンフレットを購入したが800円もする。しかし、100ページを超すこれは、本当に充実した内容で、納得できるものだ。少々不満なのは、年表をもう少し遡り、普通選挙法(25歳以上の男子のみ)のアメと治安維持法のムチを引換に制定させた1925年(大正14)からを収録して欲しかった。
現在、戦前の最大最悪の悪法であった心をも取締る、治安維持法のようなものは存在しないが、各種の悪法を寄せ集めれば、それと似通っているともいえる。
昨年、前総理は、その地位をも突然投げ棄てたが、その在任中、次々と悪法を強行採決していた。そんなとき山田洋次監督は、この作品の映画化をさらに加速する必要を、感じていたのではないだろうか。