初めて見る
、ワガノワ・バレエ学校の日本公演。少しプログラムの変更がありましたが、クラシックやコンテンポラリーのガラと、「海賊」第3幕のグランド・バレエに第2幕のパドトロワと挿入したコンサート・バージョンの上演でした。「海賊」は大きな花模様の背景幕付き。美しさとテクニックはさすがです。特に女性の上級生は一応の完成に達している感があり、とてもきっちりした印象でした。男性ソリストには、少し疲れが見えました。
ワガノワ・バレエ・アカデミー
「海賊」第3幕&ガラ
日時:2008年7月26日(土)午後4時開演
会場:兵庫県芸術文化センター 大ホール
【プログラム】
1.「クラシック・シンフォニー」より第1楽章
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:イリヤ・ラリオーノフ
プロコフィエフの交響曲第1番「古典」の第1楽章に振り付けた、いかにも学校のエチュードふう作品で幕開け。低学年と中学年による群舞。バラバラもご愛敬の幕開けです。ソリストの柔らかなムーヴメントを見るにつけ(特にポール・ド・ブラ)、ワガノワの動きはこの鋼色のシンフォニーには向かないのではないかと思いました。
2.「くるみ割り人形」よりマーシャと王子のアダージョ
タチアナ・チリグゾワ ドミトリー・チモフェーエフ
最上級生のペアだったそうですが、ちょっと覚束ない仕上がりのパドドゥでした。マリインスキーのバージョンから、リフトを簡略にしたものでしたが、何気なく見えて、とても難しいパドドゥなのでしょうねえ。
3.「コッペリア」より男性のヴァリエーション
セルゲイ・ウマネツ
容姿、存在感とも「ほんとに19歳?!」とびっくりするくらい、大人びたダンサーでした。ごく当たり前に上手だったと思いますが、出番の関係で非常にありがたく思えました。パドドゥも観たいダンサーです。
4.「シェエラザード」よりデュエット
ダリア・エルマコワ デニス・サプロン
エルマコワは若い子らしい解釈でゾベイダを造形しており、好感を持ちました。相手役のサプロンが、大人の官能は無理だと承知して、踊りの動き以外に欲を出さなかったことが、ワガノワの演目としてよかったかと。
5.「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」よりパドドゥ
ユーリア・チッカ ワシリー・トカチェンコ
チッカは愛らしくもしっかり者のバレリーナ。トカチェンコは運動量の多さとサポートの負担で姿勢が崩れがち。でも身体能力は高そう。
6.偶然の出会い
スベトラーナ・シィブラートワ アレクセイ・クズミン
プログラムに掲載されていない、謎のコンテンポラリー作品でした。作品のテーマも謎。偶然の出会いとしばしの道行き…以上でも以下にも見えませんでした。ダンサーがもったいないな〜。黒髪、長身のクズミンは、ドラマチック・バレエが似合いそうなハンサムくんでした。
7.「マルキタンカ」よりパドシス
ヴィクトリア・クラスノクーツカヤ イリヤ・ペトロフ
このくらい難しい作品になると、見ている方は発表会的応援モードになるかと。金髪のペトロフくんは、あまり大柄ではありませんが身体能力は高そうです。女性のユニゾンはカッチリ仕上がっていましたが、姿勢にちょっとバラツキがあったぞ。

休憩
「海賊」より第3幕(第2幕のパドトロワつき)
メドーラ:リリア・リシューク
ギュルナーラ:ナデジダ・バタエワ
メドーラ:ユーリア・チェリシケーヴィチ
アリ:中家正博
コンラード:アレクセイ・クズミン
低学年も生徒も出てきて大団円。
明るい髪と瞳のメドーラは、2人とも美しかったです。
最初の「クラシック・シンフォニー」とくるみのパドドゥで少し不安になりましたが、3番目の「コッペリア」男性ヴァリエーションあたりから持ち直し、以降は高学年や3月に卒業したばかりのダンサーたちによる、完成度の高い踊りが見られました。まあ、10歳そこそこから教育されてきた専門学校生ですから、それなりに。
それなりとはいえ、男性と女性の完成度はずいぶん開きがあるものだと思いました。特にパドドゥを踊る男の子の不安定な出来は致し方ないものかと。ヴァリエーションでジャンプやターンの見せ場をいくつもこなし、そのうえ女性のサポートもせねばならん。「もうダメ、ぼくヘトヘト」という声が聞こえてきそうであった。
いちばんこころ動かされたのは、コールド・バレエでした。10代後半の女性の美しさはもちろん、全体の一致とか統一感の妙に感心しました。それは厳格なレッスンによって到達したということを思い起こさずにはいられないパフォーマンス。よく言えば健気な、言い方を変えれば舞台裏のレッスンを想起させてしまう未熟な姿。学校公演の魅力でもあります。
それから、全く期待していなかった「シェエラザード」が、意外なほど印象に残りました。9年生(今年3月卒業)のペアでした。ふたりは「国王の若い愛妾ゾベイダと、逞しさと従順が取り柄の金の奴隷」といった風情ではありますが、大人のダンサーに漂う官能はほとんどありません。シェエラザードを演じたダリア・エルマコワは、シェエラザードがハイティーンだったなら、そして後宮の日常で、ふと自我の声に気づいてしまったら、そんな時に主人以外の男性に出会ったら・・・といったストーリーを踊り切った感じ。有閑マダムの情事に陥ることなく、最後まで飽きさせませんでした。
「海賊」では、外国人クラスの中家正博くんが手堅いアリを見せてくれました。彼だけは、疲れとは無縁であるように見えました。スキのない仕上がり。ただ、舞台一周連続ジュテのエクステンションを見るにつけ、ロシア人の男の子たちとは筋肉の使い方が違うのかな〜などと、ふと思いましたです。ルジマトフ、ファジェーエフ、サラファーノフに繋がっているのは、ちょっとお疲れでたよりないペトロフや、サッサとお仕事して退場してしまったウマネツらだろうな〜と。
来日したのはバレエ学校の2年生から今年3月に卒業した9年生まで、87名の生徒。芸術監督は元マリインスキー・バレエのプリマ・バレリーナ:アルティナイ・アスィルムラートワ。パートナーのコンスタンティン・ザクリンスキーも教師として来日しています。余談ですが、アナスタスィア・ザクリンスカヤ(1993年生まれ、4年生)という生徒も来日しています。プログラムに掲載された写真を見ると、黒髪にほっそりした卵形の顔、大きくて少しつり上がった目もとに…なんていうか「風」を感じるわ。アスィルムラートワとザクリンスキーの愛娘だそうです。残念ながら、ソリストではなかったけれど、コールドの中にいたかもしれません。
全体の印象は、やはり学校の発表会といったところですが、気楽に楽しめるロシアバレエでありました。

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