マリインスキーバレエ「海賊」は見どころ、お楽しみがいっぱいの青春冒険譚。大津公演では20代の若手ソリストが溌剌と踊り、楽しげにお芝居をしていました。脇を固めるベテラン、中堅のキャラクテール、コールドもよかったです。
びわ湖公演・海賊
日時:2006年11月26日(日) 午後2時開演
会場:びわ湖ホール(大津)
演奏:マリインスキー劇場管弦楽団
指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ
出演:メドーラ:ヴィクトリア・テリョーシキナ
ギュリナーラ:エカテリーナ・オスモルキナ
ランケデム:アンドリアン・ファジェーエフ
アリ:レオニード・サラファーノフ
コンラッド:ミハイル・ロブーヒン
ビルバント:ドミトリー・プハチョフ
オダリスク:イリーナ・ゴルプ
ダリア・スホルコワ
オレーシャ・ノヴィコヴァ
マリインスキーバレエ団
プロローグは黒い紗幕を下ろしたままだったのですが、オスモルキナ@ギュリナーラ率いるギリシャの娘たちの若さと美しさは十分に伝わってきました(座席が前の方だったので)。まさに夢物語の始まり、話の整合性や説得力のことは言うだけ野暮よ、ですね。
■テリョーシキナ@メドーラ
オスモルキナの登場でも眼福だったのに、やがて主役のテリョーシキナが登場すると、さらにびっくり。存在の放つ「気」が別格でした。
身体の美しさに他のダンサーとは違うものを感じました。ワガノワ育ちのアスリートとでも言いましょうか・・・。
踊りは、頼もしいほどのフォルムの美と抜群の安定感で群を抜き、高雅な気品があります。これで海賊の恋人(女房?)におさまると、どんな絵になるのだろうと、相手役を思い浮かべて苦笑しました。
でも2幕ではそんな野暮な心配などすっかり忘れ、踊るテリョーシキナに見とれていました。見栄切り、アラベスクで静止、32回転フェッテから降りるとき、すべて押し出しすぎず、しかも指先、足先のコントロールが緩みません。そのうえムーヴメントの終わりが常に優雅なので、なんとも強くて優美なものを観たという満足感が余韻とともに残ります。
強くて、というのはきっと彼女の身体の若さが発するものなのでしょうね。3年後、5年後、バレリーナとして円熟していく彼女が楽しみです。
■ファジェーエフ@ランケデム
一番楽しみにしていたファジェーエフの市場の元締め、おもしろかったです。それにもちろん、かっこよかったです。
悪役メイクで短い髯を頬から顎、口の周りにつけていました。立ち姿がとてもきれい。コミカルで大げさなお芝居で忙しいのですが、ときどき垣間見えるマリインスキーの正統派白王子らしい所作、たたずまい。この日の男性の中で一番きれいでした(ファンモード全開)。
1幕、市場でのギュリナーラとのパドドゥは、音楽いっぱいに踊りとお芝居が盛込まれていて大忙し。奴隷を物色する金持ちにニカッと歯を剥き、愛嬌のある見得を切ってはささっとサポート。遅れずにあれだけこなせるのはさすがです。
バリエーションはダイナミックに跳んで回ってました。ウェブやダンスマガジンにパドシャでジャンプしている写真があったのですが、この日は身体をまっすぐに伸ばして少し斜めに跳ぶザン・レールたらいう難度の高いジャンプだったようです。
ジャンプや回転に入るときに大きく目を見開いて真顔になるのが、なんともかわいかったです。よくを言えば、この時にもランケデムらしい「俺様」な表情でやってほしかったです。
■海賊主従
予定されたキャストが直前で変更された急造チーム。凸凹3人組でした。
この日一番大きな拍手とブラヴォーをもらっていたサラファーノフ@やせっぽちのアリ。でも、腕から肩にかけては頼もしく、サポートはよかったです。バリエーションのジャンプでは、身軽でキレのいい彼の持ち味がよくわかりました。でもまだ80%くらいの出来かな。バリエーションのラストでストンと後ろへ座ってしまいました。あれってしりもち? 夏に見たレニ国ガラでルダチェンコが全く同じことをやらかしたので、もしかしてそういう振付?まさか。。。
ところがそのあとのコーダがすごかった。あれって挽回? 連続ジュテのジャンプで踏みきり脚を大きく回して、その同じ脚で着地。上体がずっと客席側を向いていたので、腰の捻りがただごとではなかった。しかも身体を斜めに倒して跳んだので、失敗して転ぶのかと思いました。他の観客も息を呑んでいたと思います。拍手とブラヴォーの大きかったこと。
イリヤ・クズネツォフが怪我で来日しなかったため、急きょ登板したロブヒンのコンラッドは、ひたすら「いい人」で海賊の頭領としては少々もの足りません。プハチョフのビルバント(悪役メイク効果+元来目もとが濃い)の方が、よっぽどエラソーで強そうに見えました。
が、しかし。2幕海賊の隠れ家でのバリエーションでは、ふわっと滞空時間の長いジャンプを2つ3つと飛び、おみごとでした。
また、メドーラとのパドドゥは甘くて楽しげな戯れの時間。おままごとのように安心して見ていられる、これぞインペリアル・バレエのラヴ・シーン、でした。これはカカア天下になるなーという踊りでした。

3幕はパシャの宮殿の場面です。

ギリシャの浜辺で拉致され、泣く泣く買われてきたギュリナーラが、着飾ってけっこう機嫌良く鏡を覗いています。オスモルキナは、絹や宝石をまとったかわいい姫キャラがよく似合います。
そこへ海賊の隠れ家からメドーラたちを連れてきたランケデムがやって来て、また娘たちを売り込みはじめます。
■オダリスク3人娘は、お目々ぱっちり、明るい髪ときらきらした瞳のロシア現代っ子美人2人と、長身で細長い手脚が目を引く、古風な可憐さをたたえたダリア・スホールコワです。踊りについて特に語りたくなるほどではありませんでしたが、それぞれに上手で見栄えがしました。
■パシャの夢の場面
奥の紗幕の後ろでザーッと噴水が上がりました。やるなーという思いと、もしかして終いまでこの水音を聞かされるんかい?という不満がチラッと頭をよぎりましが、いつの間にか止まっていました。
私はこういうお花畑バレエがあまり好きではないので(特におとなの女性の花園は…ね)、ちょっと冷めた目で見ていました。そのせいか、テリョーシキナのソロも2幕グランパドドゥで発揮していたような存在感は見えませんでした(私見です)。
グランではその踊りの強さと優雅をもって美神の貫禄、海賊の女房にチュチュも違和感なし。しかし3幕の夢の場面では、そういうところが影を潜めて、ごく普通のプリマでした。女の園って、そんなもんではなかろうに。あ、これはパシャの夢か。だから好きになれんのね。もちろん、踊りは盤石でした。
やがて海賊主従がメドーラたちを奪還し、またまた紗幕の向こうで海賊船に乗って旅立ちます。前進、後退で狂奔する海賊船。テリョーシキナ、サラファーノフそのほか、ワールドクラスのダンサーがその上で大まじめのお芝居をするエピローグ。いやー、御本家の海賊、おもしろかったですー♪
御本家キーロフ・バレエ(マリインスキー・バレエ)の「海賊」映像です。
東方の風と南国の花の香りを併せ持つアルティナイ・アスィルムラートワ@メドーラとファルフ・ルジマートフ@アリの主演。ザクリンスキー@ランケデムも目が離せない。
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バレエ「海賊」
アメリカン・バレエ・シアターの「海賊」です。
バレリーナが若々しく、市場は賑やかでお芝居が楽しい。少年の面影を残すアンヘル・コレーラ@アリの疲れを知らない大ジャンプに拍手。2枚目半のマラーホフ@ランケデムも猫のようにしなやかなジャンプで魅せてくれます。
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バレエ「海賊」全3幕

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