ごあいさつ
“おばあちゃん、ぼくは、明日18歳になるんだ……と
つぶやいてみた。ぼくの中に改めて生きる決意がよみがえったのは、その時である。”
17歳の最後の日、ふるさとに帰りついた“ぼく”をこう記して、小宮山量平の自伝的小説「千曲川―そして明日の海へ―」(1997年刊行)は結ばれています。
<自然と人間>誌に、2002年11月から3年間にわたって連載された「千曲川のほとりで」が、このたび一冊の本にまとめられ、『地には豊かな種子(たね)を』と題して刊行されました。
混迷するこの国の今を、私たちはどう生きたらいいのか、そのことをやさしく指し示すかのように、一章一章が綴られていきます。
“かの魯迅が語っているように、「絶望」の深さをくぐりぬけるたびに「希望」は大きく育つのでしょう”(本文より)
17歳の最後の日、「生きるんだ!」――そう決心した“ぼく”と、90歳になった“ぼく”が重なります。
あの少年の日と同じ川べりに立って、90歳の“ぼく”は今なお、自身にむかい、人々にむかって語りかけるのです。
静に、けれど強く、「生きるんだ!」――と。
この一冊の本が、多くの方々に、ひとすじの希望となって届きますことを、心から願っております。
2006年9月
エディターズミュージアム
「小宮山量平の編集室」
代表 荒井 きぬ枝