金井奈津子の素顔の著者と 11 小宮山量平
『悠吾よ!明日のふるさと人へ』 小宮山量平
松本タウン情報 平成19年11月22日 掲載
片想いの人に会いに行くのは、こんな気持だろうか。緊張と動悸(どうき)が収まらなかった。
灰谷健次郎はじめ、何百人もの作家たちを励まし、奮い立たせてきた91歳の達人は、「あなた
の文章もいいね」と満面の笑み。その瞬間、私のハートは何なく射抜かれた。
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1万5000冊の本に囲まれたエディターズ・ミュージアム(上田市)で、小宮山さんは『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや』(寺山修司)という歌を、筆で書いてくれた。
「学徒出陣は死を前提に集められた命。『自分の命を捨てるほどの祖国など、あるのだろうか?』という疑問を抱えたまま死んだ若者の魂にも、抱えたまま生き続けるしかなかった人間にも、日本はまだ、その答えを出していない」
5歳のひ孫の名前を付けた本書の、33のコラム全編を貫いているのは「われに愛すべき祖国はありや?」と問い続けながら、尽きることのない、若い人たちへのエールだ。
「手間暇をかけることでしか、希望を得ることはできない。命を大事に、丁寧に生きることだよ」という言葉は、小宮山さんの生き方と相まって、圧倒的な説得力を持つ。
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「日露戦争で、ロシアが小国日本に負けたのは、知的エリートが希望を失っていたから。そんな国家は支離滅裂で弱い。そのロシアと今の日本は同じ」と大正からの歴史を見詰めてきた目には映る。
「金もうけ」のために「より早く、より効率的に」ばかりを考えて、人間的触れ合いをないがしろにしてきた日本人は、この50年間に「自分さえよければ」という『分裂体質』になったという。
「戦争責任を明らかにし、敗戦の深い悲しみをかみしめた上で『アメリカの植民地になってはいけない』と、総合的な視野で言えるオピニオンリーダーの下で助け合う、『統一体質』の『真の祖国派』にならなければ」と訴え、そのために「何より大切な課題は『自分の足で立ち、自分の頭で考える』精神の確立」と著す。
「これを欠いた僕たちは戦争へ導かれ、300万人もの命を失った」。
軍隊で新兵教育を担い、多くの命を失った哀惜と、生き残った自分への痛みは、今も消えない。
「統一体質を生み出すには手間暇かかるから、悠吾世代に託した。絶望の後には、必ず素晴らしい時代が来る。人間は正義を貫き、良い方向へいくものなんだよ」バラ色の頬(ほお)でそう言う小宮山さんは、青年そのものだった。
『悠吾よ!明日のふるさと人へ』(こぶし書房) 1800円+税