本の森に囲まれて 私の図書館修業時代
山嵜 庸子
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれてー私の図書館修業時代』と題して連載をしています。その連載が先日より、エディターズ・ミュージアムに関わる連載内容として、シリーズで始まりました。ここに掲載しご紹介します。
エディターズミュージアム @ 2012・10・13 掲載
過ぎ去った日のことをポツリポツリと思い出しては書き綴ることは確かにとても面白いことです。
けれどたまには、現在の私を書いてみたくなりました。何をしているかといえば、やはり本の森のなかをウロウロしています。
また図書館、と苦笑されるでしょうか。その通りなのです。材木町の図書館へ行って録音図書の貸出をしたり、音訳者が吹き込んだものを原本と照合してチェックする校正作業をしています。
そして、もう一カ所、本に囲まれている場所エディターズ・ミュージアム「小宮山量平の編集室」にも通っています。今日も行ってきました。故小宮山量平先生が編集者として手がけた本を中心に約1万5000冊の本が書架に並べられています。多くの作家からの先生宛の手紙や本のなかに使われた原画が飾られているのもこの場所ならではのことでしょう。
新しい本と古い本が混じった匂いがします。
この場所がつくられた経緯などは追って書いていきたいと思います。
今、先生がお書きになった生原稿の整理をしているところです。
50年から60年も前のものが、いくつもの箱の中に仕舞われていました。それを慎重に出して風に当て、新しく組み替えたりしながら保存状態をよりよくする作業をしています。
「ああ、この文字、先生の文字・・・・」と手をとめて見入ることがしばしば。読み出したりしたら作業になりません。
エディターズミュージアム A 2012・10・20 掲載
束をいったん解いて整理し直しているのは小宮山先生の原稿ばかりではありません。理論社で出版された本の著者のものもあります。原稿が保管されている箱が驚くほどたくさんあるのは無理もありませんが、それらが散逸しないようこれほど大切に仕舞われていたとは、編集者魂を見る思いがして身が引き締まりました。
図書館現役の頃は、児童書といえば文句なしに理論社の本は購入としてきましたが、後年になっていよいよその選択に間違いがなかったとの感を深くするのです。
あの頃、選本していたあの作家はこういう字を書いていたのか。取り出しながらドキドキしたり妙に懐かしくなったりしました。
小宮山先生は、作家の精魂こめた作品ときちんと向き合いそれを本にしていったのです。励ましたり助言をしたり、なまなかのおつきあいではなかったはずです。
何通もの先生宛ての作家の書簡からもそのことが伺えました。
「著名な作家を世に送り出した」などと世間では言われたりするけれど。“めぐりあい”が本になったのですよと、先生はいつも事もなげに言われました。
そういえばエディターズミュージアムの壁に掲げられた年表は「小宮山量平めぐりあい年表」となっています。それを辿れば一目瞭然。過ぎこしかたと手かけた出版物がわかります。その本が全部ここに収まっていて、手招きしています。