エディターズ・ミュージアム㉓ 曾孫はユーゴちゃん 2013.3.23掲載
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれて−私の図書館修業時代』と題して連載をしている内容を、ご本人の承諾を得て転載しています。
『悠吾よ! 明日のふるさと人へ』という小宮山量平先生の著作があります。本紙に先生が連載したものをまとめ、書き下ろしの文を加えた一冊です。
前回で書いたその男性は一番にこの本を手にとられたように記憶しています。そのとき私は、「悠吾」は先生の曾孫さんの名で、表紙の絵や挿絵は悠吾ちゃんを描いたものですと説明しました。
神戸在住の画家、坪谷令子さんの筆による、その姿はまだ幼くて可愛い盛りのものです。若い両親は悠という字を付けたいと望みました。先生は、悠々と呼吸をして考えを深めながら歩むべき時代が訪れつつある―ならば、その悠の字に吾を添えてはどうかとお考えになったそうです。ユーゴの発音からヴィクトル・ユゴーを想起して悦び、そう話してはにかんでいた先生のお顔が浮かんできます。悠吾ちゃんの一挙手一投足に慈愛の目を注ぎ、希望を見出し語りかけずにはいられない様子が滲んでいました。
本書が発行されたのは06年で、悠吾ちゃんは今、小学4年生。昨年上田に来たときに家族で本屋へ行き、「好きな本を選んで」と言われてためらわず持ってきたのが『宿題ひきうけ株式会社』(古田足日著)だったそう。この本は理論社の名作愛蔵版のなかの一冊で、ロングセラーとして読み継がれているもの。このシリーズは先生と作家の巡り会いがあり、作家といっしょに心血をそそいだ作品です。
エディターズ・ミュージアム㉔ 悠吾ちゃんの選んだ本 2013.3.30掲載
悠吾ちゃんが『宿題ひきうけ株式会社』を選んだということに、小宮山先生の娘であるきぬ枝さんは一入の感慨を覚えたようでした。
目には見えない手から悠吾ちゃんの手へバトンタッチされた瞬間だったのでしょうか。不思議な縁を思います。
『宿題ひきうけ株式会社』は私が図書館にいた頃も人気のある一冊でした。あるとき敏捷そうな男の子たち三、四人が本に頭を寄せ合って、くっくっと笑っているのが目に入りました。傍へ寄ってみると、彼らが開いている本は『宿題ひきうけ株式会社』でした。
「おれもやってもらいたいよ」「だけど先生にみつかれば怒られるよな」―目を輝かせていろいろ言っていました。この子たちは、同じ作者が書いた『おしいれのぼうけん』も幼年時代に読んでいるに違いないと思いました。
題名から面白そうなこの本を手にすると、この会社ってどういう会社だろう、どんな人たちがやっているのだろうと、誰もが好奇心を抱きます。読んでみるとそれは、子どもたちがつくった会社だったのです。社長も社員もみな、高学年の子がやっているのです(宿題の依頼が来たら、それを正しく解ける者でなくてはなりません)。
そもそもこの会社は、勉強の成績はいまひとつぱっとしないけれど、野球が群を抜いてうまかった上級生が高額の報酬でスカウトされたことに端を発しているのでした。