エディターズ・ミュージアム㉕ 悠吾ちゃんの選んだ本 2013.4.6掲載
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれて−私の図書館修業時代』と題して連載をしている内容を、ご本人の承諾を得て転載しています。
この物語に出てくる、野球が抜群にうまい上級生とは、「宿題ひきうけ株式会社」をつくった子どもたちのお兄さんの同級生でした。
「どうしてそれが発端なの?」とお思いでしょうか。それはこの本を見てのお楽しみ! ぜひ一読することをお勧めします。
初版は昭和41年(1966)ですが、このころ電子計算機が世に出始めたこと、電電公社(現NTT)では電話交換手につないでもらう電話をなくしダイヤル方式に切り替えようとしていたことなど、物語の面白さもさることながら、当時の世相が反映されていて、大人も興味深く読めるのではと思うのです。なんといってもプロ野球の選手は花形だったこともうかがえます。
目次のなかに「四季と宿題はなくならない」というのがあって、これはいつの世も変わらないことだけれど人を惹きつける言い回しと感心させられました。
同じように題名からして「どんなことが書いてあるのだろう」とつい手を伸ばしてしまった本に『チョコレート戦争』(理論社)があります。お菓子屋さんがチョコレート作りを競うのかしらと思ったら、全然違いました。その町には東京の一流店にも負けないと言われるほど美味しいケーキを売っている洋菓子屋さんがありました。金泉堂という名です。そこの社長さんはフランスで修業してきたとあって、洒落た造りのその店はフランス風と言われていました。
エディターズ・ミュージアム ㉖『チョコレート戦争』 2013.4.13掲載
金泉堂という店にはショートケーキ、シュークリーム、エクレールと子どもたちが舌もとろけそうと思いながらのぞきこんでゆくケーキが並んでいました。『チョコレート戦争』が書かれたのは昭和40年(1965)。どこへ行ってもケーキがある今と違って、高価でなかなか食べさせてもらえない子どもの気持ちが如実に描かれています。
ある日、6年生の男の子は風邪をひいて寝ている妹にケーキを食べさせてやりたいと、同級生といっしょに金泉堂へ行きました。持ち合わせのお小遣いでシュークリーム1個が買えるのです。ところが20円値上がりしていて、せっかく取り出してもらったのに買えません。同級生もポケットをさぐってくれましたが、お金はありませんでした。あきらめて二人は金泉堂のショーウィンドーを覗きます。そのなかにはチョコレートで出来た1m近いお城が納まりかえっていました。金泉堂の名物といわれていたケーキです。二人は思わず近づいてゆきました。チョコレートの城はクリームで縁取りした窓、ウエハースの屋根、赤いジェリーの塔、角砂糖のレンガと、すべてが洋菓子の材料で作られているのです。
二人してため息をつきながら、城の半分は食べられそうだと、じっと見つめていた時、パシッと音がしてショーウィンドーが砕け散りました。まるで自分たちの願いごとがかなえられたかのように。