エディターズ・ミュージアム107 まどみちおさん
2014.11.1掲載
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれて−私の図書館修業時代』と題して連載をしている内容を、ご本人の承諾を得て転載しています。
絵画に没頭した後、まどさんの本がめざましい勢いで出版されます。『ごはんをもぐもぐおかあさんと子どものための歌曲集』『花とほしの童話集』『保育のための実技指導1 ゆびあそび』などなど、いよいよまどさんの本領が発揮される時代になります。当時、保育運動の高まりのなかで、保育や幼児教育の現場から、子どもの新しい歌や遊び歌が求められていました。詩人・作曲家・保母さんたちが、ひとつになって新しい歌をつくろうという気運に満ち、実践された時代でした。まどさん自身も子どもの遊びや体のリズムに興味を持っていました。だからリズム感のある歌がたくさん生まれたのでしょう。
大日本図書からまどさんに、「童謡集を出版したい」という依頼がありました。
ところがまどさんは、「童謡はもうたくさん書いてうたわれているから詩集にしてくれないか」と交渉します。大日本図書の方もそれを承諾してくれました。まどさんは勇んで、今まで書き溜めていた詩を取り出してみます。が、吟味したところ自分が満足できる詩があまりありません。そこで新しく書いたものを半分足して詩集にしました。
『てんぷらぴりぴり』が第一詩集の名前です。まどさんは、この詩集を出したことが詩を本気で書くきっかけになったといいます。私は、それまでの作品も充分素晴らしいと思うのですが。
エディターズ・ミュージアム108 まどみちおさん 2014.11.8掲載
「私はよく、むにゃむにゃとお祈りします」。インタビューを受けたまどさんは、こう言っていたことがあります。何に向けてかはわからないけれど「祈る」という言葉に惹きつけられます。もしかしたらこれが、まどさんの作品の真髄かもしれない、それはまどさんの作品に繋がっていると思いました。
まどさんは、科学や技術などでは計り知れないものの存在を識っている。それを正面きっては明かさないシャイな質、謙虚さに魅了されています。
童謡も詩も両方書いたまどさん。詩について、童謡について、どんなふうに思っていたのでしょう。
―童謡は、ひとりの自分が創るのではなくて自分の中のみんなが創るみたいなところがあるだろうか。
詩を創るとき、この世でたったひとりの小さなひとつぶとしての存在が身も世も非ず天を仰ぎみるようにしているところがある。どうして自分を自分にして下さったのですかと問いつめるほどではなくても、自分を自分であらしめて下さったものへ、まっすぐ目を向けているところがある。童謡の場合、そんなにせっぱつまっていなくて、しかも自分をではなくて、私たちをという感じではないだろうか。(谷悦子著『まど・みちお研究と資料』)
まどさんはこんな風に、とても興味深いことを話しています。童謡は自分のなかのみんなが創る―に納得がいった気がしました。