editor's museum

　敗戦後、上田へ帰ってきた父が「千曲文化クラブ」を立ち上げた時の蔵書が今、このエディターズミュージアムの一隅に納められています。
　若い人たちにたくさん本を読んでほしい。そのために自身の蔵書で、「貸本屋のようなことを始めたんだよ」父はよくそう話していました。
　「千曲文化クラブ」の朱印が押された本は約１２００冊。番号もつけられています。
　これらの本を、父はいつどのように手に入れ、いつ読んでいたのか･･･。
　そのことをちゃんと聞いておかなければいけなかったのに････。悔やまれてなりません。

　その手がかりになる文章がありました。前回取り上げた戦後５０年目に旭川の冨貴堂書店さんの「戦争体験」という企画に父が寄せた文章の後半に、その答えがありました。
　「お父さん、そうだったのね。」私は心の中で父に話しかけました。


　　　戦後五十年目の「癒しの曲」　　―2―
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小宮山　量平
　　　　
（前略）
　私は何かにつけて「わが青春のふるさとは北海道だ」などと語り、あたかも望郷の念に駆られるように、旭川を起点とした道内各地への想い出を瞼に浮かべては、ふと涙ぐんだりするような老体となった。かえりみれば、私の生涯のいちばん大切な青春の年月を、北海道の山河と人びととの熱い交わりに恵まれて過ごし得たとも言えようか。
　今、その地の皆さんが、敢えて五十年の歳月をさかのぼって「戦争体験」という厳しいキーワードをめぐって、忘れてはならない体験を記録し、語り継ぐべき志を銘記し、正に老若一体となって明日への希望を探求しようとなさっている。
　しかも、集められた珠玉の手記を公刊なさるに当たって、その「まえがき」とも言うべき一文を私に寄せよと求められた。
　もともと旭川の冨貴堂なる書店は、私の青春時代の心の中心に深く根を張っていた。既述のとおり、まる六年にも及んだ私の軍隊生活の中で、それはまぎれもなく私の「学校」であり、魂の「道場」であった。将校になってからの私が月々の給料の大半をその書店へと運んでいたいきさつは、当時の旭川での語り草であった。
　そんな縁につながる老舗が、思いも新たに「戦後五十年」を記念して、このたびの企画である。

　戦後７０年目の夏。
　父が生きていたら語ったかもしれない言葉を、父が遺した文章の中から探しています。
　たくさん遺された生原稿の中の一つが、父から提示されたように今、私の目の前に現れました。
　戦後５０年目に、旭川の富貴堂書店さんの「戦争体験」という企画に、父が寄せた文章です。
"アッツ島玉砕"の話は、父から何度も聞かされていました。父のいた旭川の第２７連隊にアッツ島への救援の命が下され、連隊が小樽港に集結したとたん、すでにアッツ島は全滅との悲報が伝えられ、出陣は差し止められてしまいます。
　「彼らは死んだ、そして私は生き延びた」───。　そして「彼らのぶんを生きる」───。　 父の戦後が始まったのです。

　
　　　戦後五十年目の「癒しの曲」（ヒーリング・ミュージック）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小宮山　量平

（前略）
「時これ五月十二日、暁こむる霧深く　突如と襲う敵二万、南に迎え北に討つ･･･」という「アッツ島 玉砕の歌」は、とりわけ私にはつらかった。それというのも私自身の誕生日が五月十二日そのもので、巡りくるその日毎に、私は秘かにその歌を口ずさまずにはいられなかった。口ずさむそのたびに、脳底に浮かぶのは「彼らは死んだ。そして私は生き延びた」という思いである。
　やがて戦後の混沌をあくせくと生きぬき、遂に五十五歳に達して進んで現役を退いてしまったその日まで、同じささやきは消えることはなかった。ちょうどそのころNHKラジオの「人生読本」という番組で何日か語ることとなった時も、その題名は「余生を生きて」であった。
　思えば私にとって「戦後」とは余生そのものであった。余生などと言えば、何やら抹香くさく、投げやりなひびきを帯びているのだろうか。ふと親しい人たちからも「余生」などとめったに呟いてはならぬ、と、叱責を受けることもあった。慰められたこともある。けれども私が余生の念を心に刻みつけずにはいられないのは「あの人たち」を忘れないためである。


　　　死んだ人々は、還ってこない以上、生き残った人々は、何が判ればいい？

　　　死んだ人々には、嘆く術もない以上、生き残った人々は、誰のこと、何を嘆いたらいい？

  　　死んだ人々は、もはや黙っていられぬ以上、生き残った人々は沈黙を守るべきなのか？
　
　にもかかわらず、ともすれば、「あの人たち」との約束が忘れられがちな日々がつづいた。高度成長という経済的な発展の一時期が、またバブル経済といった虚しい夢想が、私たちから「誠実」という名の約束の実行力を奪い去り、私たちは、「あの人たち」を忘れがちであった。（後略）

 　　　　　　　　

「窪島誠一郎・松本猛ホンネ対談＜ふるさと＞ってなに？！」の刊行を記念して４回目の
「私の大学」を企画しました。

　“量平さん＜ふるさと＞、これでいいんですか？＜このくに＞これでいいんですか？”を
テーマにお二人に語り合っていただいた第二回目の「私の大学」。
　それから一年。
──この国はいったいどこへ行こうとしているんだろう──
そう思わずにはいられないこの国のありさまです。
　あらためて、お二人に語っていただこうと思っています。
　詳細は以下のとおりです。

INFORMATION

小宮山量平の「私の大学」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-講座その４-　

　

『窪島誠一郎・松本猛ホンネ対談

　　　　　　　　　＜ふるさと＞って、なに？！』出版記念
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（小宮山民人編集、新日本出版社刊）

 

再び、量平さん　　　　
　　　　　　　　　《このくに》、これでいいんですか？

　

　

講　師／窪島誠一郎さん「信濃デッサン館」「無言館」館主

―＜厭戦＞の遺伝子を受け継ぐ―

          松本　猛さん     「安曇野ちひろ美術館」前館長

―＜表現の自由＞はどこへゆく？―

特別ゲスト（聞き手）／三島さやかさん SBCキャスター

 

日　時／8月29日（土）PM3:00〜PM5:00

場　所／エディターズミュージアム

       （上田駅前 若菜館ビル３F）

参加費／1,200円（高校生以下500円）

定　員／100名　※定員になり次第締め切らせていただきます。

 

■お問い合せ・お申し込み

 エディターズミュージアム  TEL0268‐25‐0826

■受付開始／8月17日（月）

　受付時間／AM11:00〜PM5:00　※火曜休館

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（8/25・8/26連休）