「あのころ、いま」 45 2007.11.21 神戸新聞掲載 (共同通信より配信)
日本が失った「希望」描く
編集者・作家 小宮山量平さん
児童文学者、灰谷健次郎さんの「兎の眼」を世に送り出し、自伝的小説「千曲川」で知られる編集者・作家の小宮山量平さん。九十一歳の今、「上下巻各六百ページの長編小説」に取りかかっている。
タイトルは「希望」。「今の日本が失っているのが希望だから。この仕事はぼくの意地」と話す。
戦争中、北海道で軍隊生活を送り、1947年に東京で出版社、理論社を設立。社会科学系や創作児童文学の作品刊行に取り組みながら、日本の変遷を見つめてきた。
「今のこの国の悲劇の実態をいう言葉」として「祖国の喪失」を挙げる。愛国心という言葉には収まり切らない、日本の文化と伝統、風土をはぐくむ祖国という感覚を「認識の世界に取り戻したい」という。
「希望」は既に第一章、四百字詰め原稿用紙で約百枚を書き上げ、全十二章の構想もほぼ固まった。主人公は九十歳代の「ぼく」。小宮山さんのこれまでの人生体験をヒントに、物語を展開させていくという。
出版の分野で最近、小宮山さんが見いだした希望は、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の新訳がベストセラーになったこと。ロボットが感情を持ち権利も主張し始めたという設定の漫画「PLUTO(プルート)」の出現だ。
「知恵を絞ると、いい作品が生れるという、文化的なリバイバル気配が見えてきた。『簡単に絶望しちゃいかん』とぼくの中で鳴り響いている」
月に一度の健康診断で、特に問題は指摘されていない。「転ばず、風邪をひかず、そして義理を欠かすようにしていれば、『希望』の書き下ろし出版まで、あと二年くらいはもつだろう」と笑う。
2005年、生れ故郷の長野県上田市に、手掛けた本や著者の直筆の手紙などを展示する「エディターズ・ミュージアム」を開設した。「本と人に出会う場」として多くの人たちに訪れてほしいと願っている。