この1月23日に亡くなられた桜井佐七さんから父がいただいた手紙等の整理を続けています。
佐七さんが書かれた「中村哲先生講演会後記」が遺されています。 (前略)
私は以前から先生のお書きになったアフガンでのご活躍についての本を読み、深い関心を持ってきた。丁度三年前の夏、長野で開催された日本母親大会の記念講演の講師としておいでになった作家の澤地久枝さんが、控室で私に言われた「いまの日本で私が一番尊敬し、外国に誇れる人は中村哲先生」とのお言葉が忘れられず、昨年当初から進めていた講演会が、一年かけて実現できたという訳だ。 (後略) 講演は2006年5月24日、須坂市で開催されました。
中村先生への敬愛と祈りを込めて、父はこの講演会の新聞広告に“すいせんのことば”を寄せています。
先生の伯父様でいらした作家の火野葦平さんと交流のあった父ならではのことばでもあったと思います。 すいせんのことば 徳は弧ならずと申しますが、先生のご活躍は、作家火野葦平氏以来の日本人の侠気(おとこぎ)の脈動が伝承されていて愉快です。
手と手を握り合うだけでなく、心と心を固く結び合える、熱い人脈を、不屈に、太く永く、続けて下さるように、両手(もろて)を挙げて、先生の後に続きましょう。 合掌 講演会後、信濃毎日新聞はこう伝えていました。(2006年6月8日付) (前略)
中村医師は七日、記者会見し、復興支援活動としてアフガン本土への陸上自衛隊の派遣を政府が検討していることに反対を表明した。もし派遣されれば安全確保のため日本人スタッフはすべて帰国せざるを得ない、と述べ、ペシャワール会の現地活動が全面停止する可能性があることを明らかにした。そして「自衛隊派遣の前提となる非戦闘地域などどこにもない。米国への従属軍としてしか受け取られない自衛隊の派遣は、民生支援などで培われてきた日本への信頼を完全に崩壊させ、日本人も殺りくの危機にさらされる」と強く批判した──(後略) 灰谷健次郎さんの詩に曲を付けて歌ってこられたシャンソン歌手の寺井一通さんが、お手紙を添えてCDを送ってくださいました。
先日の私の文章(No.259)を読んでくださったのです。
「音楽生活50周年記念オリジナルベスト作品集」。
寺井さんの歌声が、すーっと心に染みてきます。
4曲目に灰谷さんの詩の“人を愛するということ”が・・・・・・。
そして11曲目、“あなたを忘れない−中村哲さんに捧げる−”
心がひきしまる思いで寺井さんが書かれた詩と向き合いました。 (前略) あなたのいのちを刻む場所は ふるさとを遠く離れた 戦いと干ばつに荒らされた 見知らぬ人たちのふるさと 信じ合い分かち合うことの その難しさを超えて あなたはその生きざまで 確かにあなたを生きた やさしい光で 片隅を照らした 寄り添い手をつなぎ 友情をはぐくんだ 貧困に苦しむ 人たちとともに生きて 涙と笑い重ねた 同じ人間として (後略) 澤地さんのことばの中にあった「日本で外国にいちばん誇れる人」。
中村先生のことばの中にあった「日本への信頼」。
私たちが大切にしてきたものを踏みにじるような言葉が、世界に向けて発せられてしまったことへの怒りが込み上げてきます。
コロナ禍の中で寺井さんが作られた曲、“雑感―2020春―”。
くり返し歌われているフレーズを、私も心の中でくり返しています。2021.2.10 荒井 きぬ枝
何処へ行こうとしているのだろうか 何を大切にしているのだろうか この世界は この国は そしてあなたは わたしは
寺井一通さんから送っていただいた2枚のCD
(左)寺井一通音楽生活50周年記念オリジナルベスト作品集
(右)わたしの出会った子どもたち
―朗読と音楽で綴る子どもの詩の世界―
朗読:灰谷健次郎
作曲:寺井一通
ジャケット絵:坪谷令子