『太陽の子』の表紙と挿絵を担当されたのは田畑精一さんです。
田畑さんが描いた『おしいれのぼうけん』(文・古田足日、童心社刊)は、230万部を超える超ロングセラーです。
田畑さんは父も代表団のひとりであった「子どもの本・九条の会」の中心にいらっしゃいました。
“絵本作家。田畑精一さん没後一年”と題された記事を切り抜いて『太陽の子』にはさんであります。
ちょうど一年前、6月23日付の「しんぶん赤旗」の記事です。
“戦争を嫌う子育てたい”と見出しにありました。 (前略)
田畑さんは、08年に発足した子どもの本九条の会の設立に中心メンバーとして奔走しました。同会は、松谷みよ子さん(故人)、古田足日さんら、日本を代表する絵本作家、画家、編集者らが呼びかけ人となりました。
11年には韓国、中国の児童文学に携わる作家たちとともにプロジェクトを立ち上げました。日中韓3か国で平和絵本を同時刊行するという、歴史的な取り組みになりました。
きっかけは田畑さんと、絵本作家の田島征三さん、浜田桂子さん、和歌山静子さんの4人が、中国と韓国の絵本作家たちによびかけたことでした。
話し合いのため、田畑さんは初めて韓国を訪問。「戦争なんか大きらいな子どもを育てよう。そんな子どもたちを育てることができたら、この国の方たちへのいくらかのおわびになるのではないかと思った」。田畑さんは韓国の作家たちを前にこうあいさつし、信頼をかちとりました。 (後略) 先週の火曜日、6月7日に刈谷市美術館を訪ねました。
“田島征三アートのぼうけん展”。
6月12日(日)までの会期中に何とか間に合いました。
このミュージアムから運び出されていった二枚の大作が最初の展示室の一番奥にあって、私を迎えてくれました。
征三さんのさまざまな作品と向かい合い、あるいは圧倒され、あるいはなつかしく・・・・・・、
そして最後の展示室へ───。
何枚かの絵の前で、私はたたずんでいました。
『ぼくのこえがきこえますか』(2012年童心社刊)。「日中韓平和絵本プロジェクト」のために征三さんが描いた絵本の原画です。
“ぼく”の声が聞こえてきました。
他の絵本の紹介とともにキャプションにはこう書かれていました。 日本がかつてアジアに対して戦争や侵略を行った過去を受け止め、絵本を通じて平和の大切さを子どもたちに伝えようと、田島征三、浜田桂子、和歌山静子、田畑精一の絵本作家4人が呼びかけ人となり、2005年に「日・中・韓 平和絵本」プロジェクトが始まった。
当初は、実現できるか不安があったが、「政治家同士だったらこれは難しいけれど、僕たちは子どもたちに向けて絵本をつくっている表現者、アーティストなんだから、中国や韓国の人たちと絶対にわかりあえる」という田島の言葉が後押しとなり、日本、中国、韓国の絵本作家12人が平和をテーマとした絵本をつくるというプロジェクトが作家主導で動き始める。
(中略)
田島は戦争で死んでしまった兵士を主人公に『ぼくのこえがきこえますか』(fig.4)を制作し、2012年に刊行。心に迫る色彩と刷毛目を生かした筆致で魂の叫びを水泡のように描き、「見えない感情を見えるようにするには、やはり抽象画しかない」と抽象をベースに半具象を取り入れた表現で戦争の虚しさや愚かさを伝えた。 (後略) 絵本を開きました。
“怒り”と“悲しみ”が征三さんの絵から伝わってきます。
そして今、私は戦争で死んでしまった兵士“ぼく”の声を聞いています。 「くにのために たたかえ」と
みんなに はげまされて
ぼくは せんそうにいった
かあさんだけが ないていた
「さようなら。 かあさん」
めいれいだから、
てっぽうを うった
ぼくと おなじ にんげんに むかって。
てきの ほうだんが
ぼくに むかって とんできた。
ぼくは にげることも
よけることも
できなかった。
(中略)
かあさんが ないている
もう ぼくが せんししたことを
しったのだろうか。
「にいさんの かたきを うってやる!」
おとうとが いかっている。
あっ おとうとが せんそうに ゆく。
やめろ もし きみが しんだら
かあさんは ひとりぼっちに なるんだよ。
てきも いかっている
にくしみが もえあがっている
だれのために たたかうのか。
だれのために ころし
だれのために ころされるの?
なんのために しぬの?
(中略)
おとうとが しんだ
かあさんの かなしみが みえる。
どんな いかりよりも
つよく ふかく はげしい かなしみ。
ぼくたちの すがたは だれにも みえないけれど
あなたに つたえたい
ひとが ひとを ころす せんそうのこと
あなたと おなじように いきていた ぼくたちの こと。
ぼくの こえが きこえますか。 “戦争なんか大きらいな子どもを育てよう”
プロジェクトに参加した絵本作家たちの願いは、そのまま父の願いでもあったと思います。2022.6.15 荒井 きぬ枝

「シコク トクシマ アワオドリ」と久しぶりの対面です。
この絵はもう一枚の絵とともに、このあと令和6年2月25日(日)まで
3つの美術館を巡ってからここに帰ってきます。

本の帯には“わたしたちは戦争がだいきらいです!”と。