米企業、貯め込む手元資金 162兆円、高失業率の一因(朝日新聞)
米企業が巨額の内部留保をためこんでいる。総資産に占める割合は半世紀ぶりの水準に達した。企業は利益を上げているのに、先行き不安から設備投資や雇用増に回していない。高い失業率や経済回復が遅れる一因になっている。
米連邦準備制度理事会(FRB)が今月発表した米資金循環統計によると、金融機関を除く米企業は今年9月末時点で、現預金や短期で現金化できる証券などの手元資金を1兆9300億ドル(約162兆円)保有。前年同期から14%増え、過去最高になった。不動産や設備を含む総資産に占める手元資金の割合は7.4%。1959年以来51年ぶりの高水準となった。
米企業の手元資金は2008年秋のリーマン・ショック以降、急速に増加した。金融危機で資金調達が難しくなった経験から自己防衛に動いたとみられるが、景気が緩やかに回復して各社の業績が改善している今も傾向は変わらない。総合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)の9月末の金融部門を除く手元資金は、前年同期の2.5倍に当たる130億ドルに膨らんだ。「GEは攻めに転じる」。ジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)は14日、投資家向け説明会で現金を有効活用する方針を示した。ただ、示した使い道は自社株買いと増配、企業買収だ。
株価上昇につながる自社株買いや増配は、株主からは歓迎されるが、景気全体への直接の影響は不透明。米投資運用会社会長のニール・ヘネシー氏は「経営者は単純に、先行きへの自信をもてないでいる。だからコストがかかる雇用増や設備投資に踏み込むことができない。日本が最近経験してきた状況とまったく同じことが起きている」と話す。現金があり、思い切った投資もしないため、歴史的な低金利にもかかわらず借り入れは減る一方。FRBによると9月末の米企業の銀行借り入れは1年前から9%減った。
豊富な手元資金は雇用増ではなく企業買収に向かう。米パソコン大手デルは13日、外部記憶装置メーカーを約9億6千万ドル(約800億円)で買収すると発表した。デルは別の外部記憶装置メーカーを巡って米ヒューレット・パッカードと買収合戦を繰り広げたばかり。投資家から「潤沢な手元資金を再成長にどう生かすのか」とのプレッシャーを受け続けてきた。
企業買収は、自ら雇用増や設備投資するよりも成果が出るまでに時間がかからない「手っ取り早い投資」だ。しかし、買収後は重複部門を削減して経営効率化を図るのが一般的で、かえって雇用減につながる可能性さえある。

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