水俣最高裁判決 国は認定基準を見直せ(毎日新聞)
熊本県から水俣病と認められなかった女性2人の遺族が認定を求めた訴訟で、最高裁が水俣病と認める判断を示したのだ。1人については、水俣病と認定した福岡高裁判決を支持し県の上告を棄却、もう1人については認定しなかった大阪高裁判決を破棄し、審理を差し戻した。判決は、水俣病の認定をめぐる行政の手法を事実上、否定した。
水俣病の主な症状は、手足のしびれや運動失調などだ。国は77年、感覚障害や視野狭さくなど複数の症状があった場合のみ水俣病患者と認める基準を策定した。県はその基準に従って症状が感覚障害だけだった原告2人の申請をはねつけた。
だが、最高裁は、認定に当たっては医学的判断や個々の患者の原因物質の暴露歴、生活歴など「多角的、総合的な見地」からの検討が必要だとした。その上で、「感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」と言い切った。また、国の認定基準を全面的に否定はしなかったが、「複数の症状」にこだわるしゃくし定規な運用に強い警鐘を鳴らした。妥当な判断だ。
国は認定基準、あるいはその運用を抜本的に見直すべきだ。その上で、症状の重さなど被害の実態に応じて賠償の枠組みを整理し直すなど、従来の政策を転換すべきである。
水俣病患者の認定はこれまで2975人だ。未認定患者は司法に救済を求め、行政基準にとらわれない判決も相次いだ。最高裁は04年、排水規制を怠った国などの行政責任を認めた。その際、一つの症状で水俣病と認定した高裁の判断を支持し、事実上国の認定基準を否定した。
だが、国は基準を変えなかった。95年に未認定患者1万人以上に一時金260万円を支払う内容で政治決着を図ったのに続き、09年に特別措置法を制定し、一時金210万円の支払いで最終決着を目指した。
水俣病とは認定しないが、少額の賠償で一定の救済はしますよ、との姿勢に他ならない。特措法の申請者は6万人以上に上った。申請すれば認定はあきらめねばならない。高齢を理由に苦渋の決断をした人も少なくないだろう。
だが、最高裁は今回、行政判断とは別に司法が水俣病かどうか個別判断していく姿勢を明確にした。今後、新たな訴訟も想定される。
水俣病は公式確認から56年が経過した。多くの患者が亡くなった。もはや行政対応の失敗は明らかだ。従来の姿勢の固持は人権上も許されない。弾力的な認定に切り替え、被害の実態調査もする。それが国への不信をぬぐう唯一の道だ。

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