日銀の戦術的「曖昧さ」、いつまで通用するか=岩下真理氏(ロイター)
日銀が7月31日に、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決定してから、2週間が経過しようとしている。声明文では、緩和の長期化を約束する政策金利のフォワードガイダンスを新たに盛り込み、その一方で長期金利の変動幅を許容する文言と副作用に配慮する表現も加えられた。
結果として長期金利の居どころを実際に上方シフトさせながら、円高・株安を招かずに済んだ。今後は経済・物価情勢次第であり、金融政策の自由度を確保するという、見事な出来栄えだ。
筆者は、今回の施策をハト(緩和の長期化)とタカ(長期金利の上方シフト、副作用に配慮)の競演と受け止めたが、市場での先行きの見方は割れたままであり、コンセンサスは固まっていない。それでも、この2週間弱で金融市場局が指値オペを打たなかったこと、臨時オペで金利上昇抑制の意向を伝えたことなどから、当面の長期金利は0.10%前後の水準での推移となりそうだ。
7月会合前には長期金利の誘導目標引き上げの観測も飛び交ったが、物価見通しを下方修正しながら、政策金利の一部である長期金利を引き上げれば、見通しと政策運営に整合性はなく、2%の物価安定目標の意義が問われてしまう。その点を明確化し、さらには物価目標を諦めていない姿勢を示すため、日銀はフォワードガイダンスを導入したと言える。
ただし、今回のフォワードガイダンスは一見、強力だが、文章が妙に長くて分かりにくい。確かに2019年10月の消費増税の影響まで考えると、短くとも2020年春、2年ぐらい先まで、長短金利は現状水準を維持と受け止められるのは自然だろう。
しかし、文章が簡潔にできないのは、ボードメンバー9人の妥協の産物だからだ。過去の発言から、コミットメントに一番のこだわりがあるのは若田部昌澄副総裁だろう。反対が多くならないようにまとめ上げた、事務方の苦労が垣間見える。
黒田東彦総裁は定例会見で「ほとんどの不確実性が海外」と指摘した上で、「2019年10月の消費税率引き上げの影響を例示的に示す」という考え方をほのめかした。一部に消費税にこだわったメンバーがいたと推察されるが、賛成したメンバー全員がそれだけにこだわっているわけではなさそうだ。
なお、8日に発表された7月会合の「主な意見」では、フォワードガイダンスの導入を条件に、賛成したメンバーが2人いることは読み取れたが、具体的な議論は明らかにならなかった。その一方で、雨宮正佳副総裁は2日の講演後会見で、フォワードガイダンスについて質問され、「消費税率引き上げの影響を含めた不確実性も含めて、経済・物価情勢をどう判断するかがポイント」「カレンダーベースの約束ではないと位置付け」と回答。経済・物価情勢を判断して決定するため、あらかじめその期間は決めていないことを示唆した。
市場では「当分の間」の解釈も分かれるが、金融政策の効果発現のタイムラグや、経済・物価情勢を丹念に点検することを踏まえると、筆者はとりあえず、半年という期間は重要な節目と考えている。

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