日本の消費税の議論はなぜ「こんなに的外れ」か(東洋経済)
理由その1:給料以上に税率が引き上げられた。過去の消費税増税が経済に悪影響を与えた最大の理由は、給料が増えないからです。3%の消費税が導入された1989年4月、統計局の調査によると日本人の給与は平均して4.3%増加していました。もちろん消費税導入への抵抗はあったでしょうが、給料がそれ以上に上がっているので、内需がマイナスになることはありませんでした。
一方、消費税が2%引き上げられ、5%になった1997年は、給料は平均1%程度しか伸びていませんでした。当然、引き上げには強い抵抗がありましたし、実際の負担も重かったのです。日本で前回消費税が引き上げられたのは、2014年4月です。5%だった消費税率が3%引き上げられ、8%になったのは、皆さんもご存じのとおりです。
このときは、第二次安倍晋三政権で実施されたアベノミクスが奏功し、過度な円高が是正され、株価も順調に上昇し、企業の業績も好調でしたが、給料の伸びが1%台でしたので、過去もっとも重い負担となっていました。
海外では、消費税の負担は次第に重くされてきましたが、それ以上に給料水準が増えています。対照的に、日本では、長年にわたって給料は低空飛行のままで、給料以上に消費税が引き上げられたため、多くの日本人にとって消費税が重い負担となってしまったのです。
理由その2:生産性に比べて給料が安い。日本人の消費税負担が、欧州諸国に比べるとかなり少ないのは事実です。しかし、それは消費税率が低いからだけではありません。日本人の消費税負担が少ないのは、給料が異常に安いからです。
とくに、低所得者の負担がどの程度なのかは、最低賃金を比較するとわかりやすいです。日本人の生産性は、例えばイギリス人とそれほど大きくは変わりません。しかし、最低賃金を購買力調整して比較すると、日本の最低賃金はイギリスの約7割程度なのがわかります。これがいかにおかしいかは、子どもでもわかるでしょう。消費税のかからない非課税対象を無視しても、仮に消費税率が15%の場合、給料が100だとすると、残りの85が実際に使える所得になります 。
しかし、日本の最低賃金はイギリスの7割程度しかありません。イギリスの給料が100なのに対し、日本ではわずか70しかもらえていないのです。そこに10%の消費税がかかれば、残るのは63です。これでは反対の声が上がってもしかたがないでしょう。端的に言えば、適切な給料をもらっている人から15%の消費税をとるのと、給料が異様に安い人に8%・10%の課税をするのとでは、意味が違うのです。
理由その3:生活必需品も課税対象。海外では、生活必需品は基本的に消費税適用の対象外で、非課税にしている国が多いので、消費税を引き上げても貧困層の負担が重くなることはありません。しかし、日本ではいまだに生活必需品も消費税の課税対象です。今年予定されている10%への引き上げ時には、軽減税率を採用するなど、さまざまな対策が打たれるようですが、生活必需品がすべて非課税になるわけではありません。
■消費税増税の「負担者」は誰か
理由その4:増税は個人部門が負担。給料が上がらないまま、消費税率が上がってしまうと、個人の負担が非常に重くなります。つまり、消費税率を上げて賄おうとしている社会保障費などは、主に個人部門が負担して、企業は直接的には負担しないことになるのです。
ここ数年、最高益を更新する企業が多数あり、企業の内部留保金は未曽有の水準に達するほど、とどまりまくっています。そんな企業には負担をさせず、個人の負担ばかり増やすのでは、反発が高まるのも当然です。
理由その5:企業負担にすると労働条件が悪化する.
消費税率が上がったとしても、企業がその分を価格に転嫁しないことも十分にありえます。人口が増加している通常の経済ならば、個人消費が増えるので、価格に転嫁しなくても売り上げの増加によって吸収することが可能です。
しかし、人口が減っている日本の場合、価格に転嫁せずに、ほかに何も手を打たなければ、単純に利益が減ります。そこで、企業は非正規雇用者を増加させるなど、人件費を圧縮し、利益を確保しようとします。つまり、消費税率の引き上げは、労働者の労働条件を悪化させることにつながる可能性が高いのです。

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