識者がみる関電「こんな企業、ほかの業界で生き残れぬ」(朝日)
関西電力の金品受領問題は、原発事業をめぐる立地自治体側と大手電力会社の癒着の実態を示した。さらに、第三者委員会の報告書では電気料金の値上げにともなって削減したはずの役員報酬を、隠れて補塡(ほてん)していた事実も明らかになった。政府の有識者会議の委員として、関電の電気料金値上げを審査したことがある松村敏弘・東京大教授(公共経済学)はどう見たのか。
関電に「極端な内向き文化」 問題山積み、改善へ高い壁
――関電の金品受領問題をどう見たか。福井県高浜町の元助役らが関電の幹部に多額の金品を贈ることができたのは、それだけもうかる工事を関電が発注していたからだろう。厳しいコスト感覚が求められる今の時代、ほかの業界でこんな企業は生き残れない。関電だけでなく、大手電力全体が「コスト意識を欠いている」と疑われても仕方がない。
関電が30日に経済産業省に提出した業務改善計画にはガバナンス面の改革などが項目にならぶが、これによって発注の不正がすぐになくせるかはわからない。改革が効果を上げているか、よく注視していく必要がある。
――関電が2011年の東京電力福島第一原発事故後に企業や家庭の電気料金を値上げした際、役員報酬カットを「公約」として掲げたが、実際にはその一部を役員の退任後にこっそり支払っていたことが第三者委員会の報告書で明らかになった。
原発事故後、大手電力は保有する原発を動かせなくなり、関電など原発依存度の高い会社を中心に収益が悪化した。多くは電気料金の値上げを経産省に申請し、審査の過程で経営の合理化が求められた。料金の原価として人件費に盛り込める役員報酬水準は「国家公務員の指定職並み(1800万円程度)」とする方針になった。
――「料金を値上げ前の水準に戻すまで、決められた以上の役員報酬を支払ってはいけない」と決めた、ということか。
そうではない。料金原価をはじく際の報酬水準は決めたが、それは実際に会社が支払う役員報酬の額とは別だ。大手電力はほかの経費を削ったり電気事業以外でもうけたりして、その分報酬を増やすことはできる。民間企業である以上、監督する経産省にもこれを止める手だてはない。今回明らかになった関電による役員報酬の補塡は、違法ではない。
――報酬の補塡に問題はないのか。
全く問題がないわけではない。関電はその後、原発事故後2度目となる値上げを申請した。その際、役員報酬を約1800万円より高くしていたことがわかり、消費者からは厳しい意見が寄せられた。原発事故後2度目の値上げ認可にあたって関電は、決められた水準まで役員報酬を引き下げるよう努めると約束した、と社会から受け止められた。
――関電は12年3月に役員報酬のカットを始め、19年6月まで最大7割のカットを続けた。しかし、実際には16年からカット分の補塡が始まっていた。補塡は値上げを受け入れた消費者を裏切る行為だったということか。
関電の行為には消費者をだましていた側面があり、不誠実な行動だと思う。こうした関電の体質に、批判の目が向けられるのは当然だ。
――電気の発電、送配電、小売りを各地の大手電力が独占的に担う「地域独占」が長年続き、事業者間の競争が生まれなかったことが今回の問題の背景にあるのか。
¥今回の一件だけで、そこまでは言い切れないと思う。関電の企業体質にも原因があるのではないか。補塡を決めたのは、ともに社長、会長を務めた森詳介氏と、後任の八木誠氏だとされている。全ての責任が彼らにあるとは思わないが、彼らの退任により関電の企業体質が変わる可能性は十分にあると思う。
――今後、消費者に求められることは。
¥送配電設備の維持や再生可能エネルギーへの投資で、長期的に見れば日本の電気料金は上昇していくだろう。送配電設備の維持費は利用者が負っているが、人口減少が進めば1人当たりの負担は増える。太陽光や風力など再生可能エネルギーでつくった電気を増やすための設備投資も、今後さらに必要になる。料金の上昇を抑えるために大手電力と送配電事業者がしっかり効率化に努めているか、消費者は厳しくチェックする必要がある。電力改革に消費者が関心を持ち続けることは、不祥事の抑止にもつながるはずだ。
〈まつむら・としひろ〉 経済学博士。東京大学社会科学研究所准教授などを経て、2008年から同教授。専門は公共経済や産業組織。経産省が設ける多くのエネルギー関連の有識者会議で、委員を務める。
電気料金の値上げ審査〉 家庭向けの電力販売が自由化された2016年4月より前は、この分野を独占していた大手電力会社は経済産業省の認可を得なければ電気料金の値上げができなかった。大手電力の申請を受け、経産省の有識者会議が値上げの妥当性を審査する、という流れだ。大手電力は、燃料費や設備の修繕費、税金など全ての必要経費を積み上げる「総括原価方式」に基づき料金を算定していた。役員報酬も、その一項目である人件費に含まれる。

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