日豪EPA交渉「時代の流れ」「壊滅も」農家に試練の時(朝日新聞)
日本と豪州との経済連携協定(EPA)締結に向けた交渉が7日から、10カ月ぶりに東京で開かれる。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を検討する菅政権にとって、「開国」の覚悟が問われる最初の試金石となる。焦点は、豪州が求め、日本が拒んできた砂糖や牛肉などの関税撤廃だ。生産現場を歩いた。
2月初め、オホーツク海に近い北海道美幌町。氷点下の寒空に、築50年余の工場から白煙が立ち上り、甘い香りが漂う。日本甜菜製糖の美幌製糖所。地元で収穫された砂糖原料のテンサイがベルトコンベヤーで運ばれ、次々と精製されていく。
農閑期を利用した農家ら約250人が働く町内有数の工場だ。太田良知所長(58)は「もし自由化で海外から安い砂糖がそのまま入ってくれば、我々はいよいよ石炭産業のようになる。いつまで続けられるか」と心配する。
ここ数年、国産糖の卸売価格は1キロあたり170円前後なのに対し、豪州産は50円で3倍以上の開きがある。それでもやってこられたのは、328%まで設定できる高い関税と、輸入品を買う国内の製糖メーカーから年間500億円の「調整金」を取り、価格差を埋めてきたからだ。
砂糖は、国産と外国産の品質差がなく、高付加価値化で勝負することも難しい。農林水産省は、保護をなくせば、沖縄県や鹿児島県のサトウキビを含め年間1500億円の生産がゼロになり、「全国3万5千戸の甘味作物農家は壊滅する」とみる。
ただ、関税撤廃で、すべての品目が壊滅するわけではなさそうだ。たとえば、1991年に輸入制限が撤廃された牛肉。関税率は段階的に下げられ、いまは38.5%。91年当時、全国に22万1千戸あった肉牛農家は7万4千戸(10年)へと、3分の1に減ったが、先進農家はコスト削減と高品質化への取り組みを加速させている。

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