「萌! 頑張れ」
思わず声が出ました。応援席から同じように声が飛んでいました。
(いつもの観戦記とはちょっと違ったものをと考え、それを実行してみます。個人的な思い入れで書く内容もありますので、す〜っと流していただけると助かります)
佐々木萌は岡山シーガルズ生え抜きの選手ではありません。廃部になったV・チャレンジリーグの三洋電機から姉の侑と共に岡山へ移籍して来て、今年3年目の22歳。昨シーズンまでは主力として獅子奮迅の活躍をする姉に対して、何となく頼りなさを禁じ得ないWSでした。シーガルズにはいない球質の重いズシンと響くスパイクを打てる素材なのに、生かし切れないもどかしさを感じていました。
しかし、今季は萌に転機が訪れました。姉の侑が引退。長女の侑に頼りがちだった三女の萌にとっては独り立ちを求められるシーズンになったのです。更にポイントゲッターの福田舞も引退。栗原恵の退団、移籍があって、レフトの責任を川畑愛希と共に背負わなければならない立場に立たされました。
元々、守備型WSとしては評価を受けていた選手。レセプション能力に秀でた素質を見せてきました。コンビバレーを推進するチームなのにサーブレシーブが下手くそという“伝統”のシーガルズにとっては救世主に成り得る選手なのです。それを生かすも殺すも、自分次第ですが。
そこで本題に戻ります。
22日の東レ戦の一幕。冒頭の言葉は、萌があの木村沙織にサーブで狙い撃ちされたシーンで飛び出すことになります。東レには殆ど連続得点を許さず完勝した試合の中で唯一流れを持って行かれそうになったのがこの場面です。
全日本の主将で大エースと呼ばれる木村沙織ですが、スパイクに上手さを見せるも爆発的な威力を持っている訳ではなく、性格的にも割と切れやすいタイプなのです。そんな彼女の最大の武器はジャンピングフローターの速く鋭く変化するサーブ。しかも、標的を決めたら逃しません。
その木村のサーブのターゲットにされたのが萌でした。手元で伸びるサーブで2球続けてサーブレシーブをはじかれ連続失点。完全に狙われているのが見えて、応援するスタンドにも不安が広がりました。
「萌! 頑張れ」
自然に声が出ました。応援席から重なるように同じ言葉が飛び出したのは、ここで相手にリズムを渡してしまって苦杯をなめてきた過去を何度も見せつけられていたからだと思います。
そして3本目。萌は綺麗にレシーブを遥に返し、この試合最大の危機を脱しました。メディアはどこも殆ど取り上げませんでしたが、この場面が試合のターニングポイントであったことは間違いないと思います。
萌の東レ戦でのサーブレシーブ成功率は実に81.8%。受数11本に対して、成功数9本。つまり、あのサービスエースを許した2本を除いて、全てのサーブレシーブを遥にAパスで返したことになります。この試合の隠れたMVPと言えると思います。
攻撃面では16点を稼いだ浅津ゆうこがヒロインですが、守備面では佐々木萌が試合の流れを渡さなかった功績を高く評価されるべきだと思います。
かつて、移籍選手を受け入れることがなかった岡山シーガルズ。それは、意固地に自らのスタイルを押し通す為に敢えてそうしていた訳ではなく、プレミア唯一の企業の傘下にない貧乏クラブチームに移籍しようという選手が皆無だったというのが正しいです。初めて移籍を受け入れたのがデンソーで外国人選手に出場機会を奪われて、腐りかけていた福田舞です。その後は、同じデンソーから福田の高校の後輩である関、そして三洋電機から佐々木姉妹、パイオニアを退部してロシアリーグに参戦するも五輪代表に漏れて引退を考えていた栗原などが次々に移籍加入し、新しい岡山シーガルズを形成して来ました。今季は廃部のパイオニアから、主力だった今野・浅津・香野の3選手を獲得。プレミアの各チームからも一定の評価を受ける存在になりつつあることを感じます。
その昔、“リーグのお荷物”と呼ばれた弱い弱い企業チームだった東芝シーガルズは廃部を乗り越えてチームを解体することなく貧乏ながら信念を持ったクラブチームとして岡山に根を下ろし、紆余曲折を経ながら今日を迎えました。
悲願の日本一への挑戦を口にできるほどに成長したチームを見ると感無量と言えます。ひ弱な一羽の鴎が日本の頂点という大空を舞う姿を夢見てこれからも応援を続けます。

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