東芝、半導体枠組み多難(記事冒頭のみ)
東芝の半導体事業売却の契約内容を取り上げた記事。
「東芝は半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の株式譲渡契約を日米韓連合と結んだが、
二転三転する交渉の末「急ごしらえ」で固めた枠組みには難題や疑問が残る。独占禁止法当局の姿勢、売却の暫定停止リスク、議決権を行使できる「指図権」――。上場廃止となる2期連続の債務超過を避けるため、
2018年3月末までの売却完了を目指すが、期日通りに売却手続きを終えられるかは予断を許さない。」
独禁法審査、米ウエスタンデジタルとの係争、事業を譲り受ける会社の議決権構成について解説しています。
会計的には、最初の2つは売却処理の時期(場合によっては売却取引が行われるかどうか)に影響しそうです。議決権構成は、そもそも売却益が計上できるのかにもかかわってきます。
「
東芝メモリの議決権は東芝とHOYAの日本勢が過半を握る。一方、産業革新機構と日本政策投資銀行は、WDとの係争が終わるまで出資しない。その代わり、
東芝が持つ議決権の一部を間接的に行使できる「指図権」と呼ばれる権利を手に入れる。
革新機構などは資本参加するまでの間に、東芝メモリの新経営陣が、革新機構などに不利な意思決定をしないよう監視できるメリットがある。例えば、東芝メモリの株主総会で東芝に対し決議の方向を指図できる。
東芝には東芝メモリの経営に両社が関与できる余地を残すことで、確実に出資してもらう狙いがあると見られる。ただ、指図権付与は国内では珍しく、どういった運用になるのか疑問の声も多い。
議決権のない優先株を取得するアップルなど米IT(情報技術)4社が、製品を引き取る権利にとどまらず、相応の発言力を持つ可能性もある。迅速な意思決定が競争力を決める半導体業界のなかで、船頭の多さは東芝メモリの経営の足かせになりかねない。」
譲り受け会社が、子会社や関連会社に該当するかどうかの判断において、この「指図権」はどういう扱いになるのでしょうか。何の出資も行っていない相手に与える権利ですから、判断するうえでは無視すべきように思われますが、どうなのでしょう。そうすると、「東芝とHOYAの日本勢が過半を握る」(ただしHOYAの出資分はごくわずか(270億円)にすぎないようです)ということからして、譲り受け会社は東芝の子会社ということになり、売却益は計上できないということになってしまいます。ただし、その場合でも、東芝以外の出資分は純資産には計上されるので、債務超過解消には少しは役立ちます(増えるのは主に非支配株主の持分でしょうから影響は限定的かもしれませんが)。
来年3月までには、ウエスタンデジタルとの係争が解決し、革新機構などが出資を行い、東芝の持分比率が減る(子会社でなくなる)だろうという見切り発車なのでしょう。
東芝のプレスリリースを見ても、売却による会計上の影響については、ふれていないようです。
↓
東芝メモリ株式会社の株式譲渡契約締結に関するお知らせ(東芝)(PDFファイル)
譲受会社は、合計で2兆円の資金調達を行い、東芝メモリを買収することになっています。そのうち6千億円は銀行融資です。残りの1兆4千億円の内訳は、以下のとおり。
・東芝再出資分3,505 億円
・ベインキャピタル2,120億円
・HOYA株式会社270 億円
ここまでが(通常の)出資で計5,895億円(東芝の出資比率を計算してみると、59%)。
・米国 Apple 社、米国 Seagate 社、米国 Kingston Technology 社及び米国 Dell Technologies Capital 社の4 社総額4, 155 億円
これについては、「TMC の普通株式または議決権を取得する計画はありません」とされています。
・SK hynix 社3,950 億円
これは、当面は、ベインキャピタルが組成する会社 への融資。ただし、その融資の一部を株式へ転換する権利(条件あり)が付与されているそうです。
指図権については以下のような説明をしています。
「
保有者とは異なる第三者が当該保有者に対して指図する権限をいいます。 但し、当社は指図 内容にかかわらず、合理的な範囲で、
自らの判断により議決権を行使する権利を留保しております。」

(東芝プレスリリースより)
指図権と将来の出資、まったく別の話=東芝メモリで革新機構会長(ロイター)
「志賀会長は指図権と将来の出資について「まったく別々の話だ」と説明。「出資については、何の約束もしていない。将来の(検討)意向を表明しただけだ」と強調した。その上で「係争が終わって、その後にもう一回しっかりと(東芝メモリの)事業内容をみて、社内的な手続きの中で判断する」と述べ、
訴訟問題が解決した時点であらためて出資の是非を検討する意向を示した。」