オリンパス<7733.T>、米助言会社の起用など認める 投資家は依然として不信感
オリンパスが緊急会見で疑惑の買収問題を説明したという記事。報道やプレスリリースをみると、事実関係については、ウッドフォード元社長の指摘していたとおりのようです。
まず、ジャイラス買収について
「ジャイラス買収でAxesと関連会社に支払ったのは6億8700万ドル(当時のレートで687億円)。記者会見に同席した川又洋伸取締役は「すべてがFA報酬ではない」と説明。
約2億4400万ドルが現金と株式オプションで構成する報酬で、
残りが株式オプションの対価として支払った優先株の発行とその買い戻し額の差額であり「
不当に高額だとは考えていない」との立場を繰り返し強調した。
オリンパスからAxesへの支払いには、一般的なFA業務に対する報酬のほかにM&A(買収・合併)に必要な業務の包括的なコンサルティングの報酬や、
FAのPerellaやWeil,Gotshalへの報酬も含まれているとした。優先株を発行したケイマン諸島の「Axamインベストメント」は、佐川氏がM&Aでの資金負担で立ち上げたファンドだと説明した。
ただ、FA報酬の一部の株式オプションの対価を優先株で支払ったことについて森副社長は「Axesは買収ターゲットのエクイティを持ちたいというのが要望だったが、税金対策なども考えていたのではないか」と説明。同社は当初、現金で支払うとことを主張したと釈明した。
優先株の買戻し額が6億2000万ドルに上ったことについては「ジャイラス買収で事業価値が高まると想定していた」(川又取締役)とした。」
Axesから先のカネの流れについては、明らかにされていません。一部はちゃんとした投資銀行や法律事務所にいったようですが、たぶんそれは全体のうちのごくわずかなのでしょう。
国内3社の買収について
「オリンパスは同日、アルティス、NEWS CHEF、ヒューマラボの国内3社の買収についても、
外部第三者機関による事業価値の算定が実施されていると主張。買収のスキームについて森副社長は「何段階に分けてものも買収になっている」と説明したが「
(購入先の株主は)まったくわかっていない」と述べた。」
「外部第三者機関」というのは、FACTAが報じたあの会計事務所でしょうか。こちらも、最終的なカネの流れは不明です。
「・・・同日の発表について損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントのシニア・インベストメントマネジャーの菅原繁男氏は「肝心の
買収価値の適正性に関して、定量的な説明がないため、投資家の信頼回復にはつながらないだろう。今日の発表は意味がない。しょせん社内の情報開示ではこれぐらいが限界だし、やはり第三者機関の調査が必要だ」と述べていた。」
当社の過去の買収案件に関する追加情報について(PDFファイル)
ジャイラス買収にかかる報酬のカネの流れで最も金額の大きなものは、ジャイラスの優先株の発行とその買い戻しです。会社のプレスリリースでは以下のように述べています。

(クリックすると拡大します。)
優先株の発行は2009年3月期(オリンパスの前任会計監査人の監査対象期間)、優先株の買い取りは2010年3月期(オリンパスの現会計監査人の監査対象期間)ですので、両年度の有報を見てみました。
まず、気がつくのが、いずれの年度も、「関係会社の状況」においてジャイラス社が個別表示されていないことです(もしかすると見落としているかもしれませんが)。その代り注で
「なお、
その他の中には、
特定子会社である
Gyrus Group Limited及びITX INTERNATIONAL EQUITY CORPORATIONが含まれています。」
と書かれています(2009年3月期)。特定子会社というのは(基準は覚えていませんが)相当重要性のある会社です。それが、「その他」として一括表示されているというのは不思議です。
このため、ジャイラス社の議決権所有割合やオリンパスとジャイラスの関係内容は明らかになっていません。2009年3月期末では、ジャイラスはオリンパスの100%保有ではなく優先株(1年後には620百万米ドルの価値を持つもの)を発行していたわけですが、そのことを「関係会社の状況」から読み取ることはできません。また、アドバイザーへの報酬をジャイラス社が優先株発行などの形で肩代わりしていたこともわかりません(もしかすると別の個所に記載があるのかもしれませんが)。
仮に、有報のどこにもそのような情報が記載されていないとすれば、重要な情報の脱漏ではないのでしょうか。
つぎに、優先株の買い戻しの取引ですが、会社のプレスリリースによれば、これは「株主権の買い取り」であり、発行額と買い取り額の差額をのれんに計上しているそうです。もしそうであれば、少数株主持分が2010年3月期(買い戻しが行われた期)にかなり減っていなければならないはずですが、2010年3月期有報で貸借対照表や株主資本等変動計算書をみても、少数株主持分はいずれの年度末も約74億円でほとんど変動がありません。
考えられるのは、優先株を発行した2009年3月期において、優先株を資本(純資産)ではなく、負債に計上していたのではないかということです。ジャイラスは英国の会社で、ごく最近まで上場会社だったようなので、IFRSを適用していると想定されます。IFRSでは、株式の形態をとっていても実態が負債であれば負債に区分されるようです。もし、2009年3月期において、現地会計基準を尊重して、優先株を負債計上していたのであれば、2010年3月期における優先株の買い取りは、負債の償還ということになり、簿価と買い取り額の差額は、のれんに計上するのではなく損失計上されるのではないのでしょうか。買い取りのときだけ日本基準に修正するというのは腑に落ちません。仮にそのような会計処理が認められるとしても、そのことは会計方針の注記に記載すべきではないのでしょうか。
以上、有報のごく一部を見ただけですので、会計処理や開示が適切かどうかについて決めつけるつもりはありませんが、会社には、ぜひ、会計処理や開示との関連も含めて、明らかにしてほしいと思います。
オリンパス:FA支払額は妥当、成長戦略に沿って判断−英社買収(ブルームバーグ)
「川又氏によると、
差額4億4300万ドルに関しては410億円強をオリンパスののれんの項目に計上。この額はジャイラス買収実施時の08年3月期にのれんに計上した1680億円とは別。 ただし、その後償却を進めている。」
[FT]投資家を顧みないオリンパス会長の酷評メモ(日経)
「・・・オリンパスのスキャンダルは今、1人の人間よりはるかに大きな問題となっている。これほどの大金を誰に払ったのかを会社側が明確に説明しないことは、必然的に、
闇の勢力が関与しているという臆測を招いた。
ウッドフォード氏は、買収に犯罪者がかかわった証拠は何も目にしていないと強調したが、その可能性があるだけでも、ウッドフォード氏は不安になり、解任後に急いで日本を去ることになった。
そうした不安は見当外れではない。ヤクザと呼ばれる日本の組織暴力団は、分かっているだけで約8万人の構成員を抱えており、彼らの支配力は、賭博や売春などの中核活動を超え、合法的なビジネスにまで及んでいる。ヤクザとその関係者の常とう手段は、企業を説き伏せ、ささやかな弁当箱であれ、もっと実体のある資産であれ、モノやサービスに過分なカネを払わせる方法を見つけることだ。」
監視委 オリンパス問題に関心(NHK)
英社発行優先株 元社長が書簡で違法性指摘(産経)
オリンパスの怪しい巨額買収 裏でうごめく海外ファンド(週刊ダイヤモンド)
オリンパス企業買収問題 英監査法人と日本の弁護士らの調査報告の内容に大きな食い違い(FNN)