内憂外患の監査法人
(冒頭の東芝関連を除いてやや漠然としていますが)監査法人への損害賠償請求の動きがあるというコラム記事。
「大阪府内在住の40代男性は7月19日、新日本監査法人が粉飾決算を漫然と見過ごしたとして、東芝に対して損害賠償請求訴訟を起こすよう求める書簡を送りつけた。
損害賠償請求額は115億円。ベテランの会計士も「これまで監査法人を相手取って訴訟を起こす話など、聞いたことがない」というから、監査法人を手放しで信頼し、ありがたがる時代は終わったのだ。
これはこれで問題だが、実は国内に目を奪われているうちに、沖合に黒船が多数押し寄せていた。米国を中心とした
海外機関投資家が、国内のある監査法人を相手取って集団で損害賠償請求訴訟を起こそうと準備に取り掛かっている。関係者によると、その数は数十社に上るというから、賠償請求額はそれなりに大きくなるだろう。
大手監査法人と言えども、純資産の蓄積にさほど厚みがあるわけではない。トーマツが公表している財務諸表によると、前期末(2015年9月末)時点で総資産501億円に対し、純資産は239億円。あずさ監査法人は同6月末時点で総資産528億円に対し、純資産は195億円。新日本監査法人は同6月末時点で総資産645億円に対し、純資産は148億円でしかない。外国人投資家の間で監査法人の責任を問おうとする機運が高まり、訴訟が次々と起こされるようだと監査法人は財務上の負担が高まる。」
金銭的には、大手監査法人は、加盟しているグローバルネットワークの保険に入っているはずなので、仮に賠償金を支払うことになっても、保険である程度カバーできると思われます。ただし、事務所としての評判には傷がつきます。
新日本の純資産が他の大手法人より少ないのは、パートナーの退職年金に備えた引当金が大きいためでしょう。いざとなれば、パートナーに年金の一部または全部をあきらめてもらえば、戻し入れ益が計上できます。
「こうした訴訟がたびたび起こされれば監査法人の経営危機が囁かれる時代が来ても何の不思議もない」といっており、それは間違ってはいませんが、今すぐに大手監査法人の経営に影響するほどではないでしょう。(準大手以下についてはよくわかりません。)
なお、大手の決算は、たしか、6月決算が9月に、9月決算が12月に公表されます。訴訟も注記か何かで開示していたと思います(例えばトーマツのニーウスコ−)。
東芝に関連して、トーマツにもふれています。
「日本公認会計士協会内でも火種がくすぶる。東芝の粉飾決算では、
トーマツが裏コンサルを務めていたことが、漏出した社内メールから判明。
公認会計士の間でトーマツの責任を追及すべしとの声が高まりつつあり、これに伴って一部には協会幹部の責任を問う声さえ出始めている。米国がそうであったように、日本でも監査部門とコンサル部門を完全に分離し、兼営を禁じる議論が出てきてもおかしくない。」
海外事務所の状況は詳しくは知りませんが、一時期、コンサル部門の分離(別会社化・ネットワーク離脱)が進められたものの、最近は、ネットワーク内でコンサルも拡充する方向ではないのでしょうか。
しかし、問題となったトーマツの例のように、監査人に知らせないで、セカンドオピニオン的業務をやるというのは、あまりないのかもしれません。
東芝株主が監査法人への損害賠償請求を要求した件について
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トーマツの関与については
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