東芝決算、「不適正」ではなく初の「意見限定」か、PwCあらた監査法人への視線(記事の一部のみ)
限定付意見となった東芝の2017年3月期の会計監査を取り上げた記事。かなり詳しい記事です。
監査論の町田教授や会計評論家の細野氏がコメントしています。
「「『限定付適正』と聞いたとき、最初は『範囲限定』かと思った」と青山学院大学の町田祥弘教授は振り返る。だが、「範囲限定」ではなく、「意見限定」だった。「驚いた。監査報告書に記載されている内容を読む限り、不適正意見でもおかしくはなかった」と語った。
会計監査のよりどころとなる「監査基準」を読むと、限定付きの適正意見には、2つのパターンがある。「
範囲限定」と「意見限定」の二つだ。
...町田教授は、2017年3月期決算についても、財務諸表全体については適正とするが、ウェスチングハウスに関しては部分的に監査を十分に実施できなかった、という判断だったのではないかと、第一報を聞いた際に受け取ったようだ。
だが、実際には「
意見限定」だった。意見限定とは、財務諸表に虚偽表示がある場合で、つまり監査人からみて、財務諸表に「間違いがある」ということだ。
この場合、
間違いがあれば、直すべきだと誰もが思うはずだ。監査法人も会社に直させるべきだと思うが、今回、東芝はそれを拒んだ。町田教授は「会社が言う『監査人との見解の相違』というのは受け容れられない。今後、他の会社の監査においても、
会社が監査人の指摘に納得がいかないときに『意見限定にしてほしい』と要求してくるおそれがある。それが通るかどうかは、そのときどきの状況にもよるだろうが、仮に会社と監査人の力関係で決まってしまうとしたら大きな問題だ。監査人は適正な財務報告を実現する役割を担っており、
会社に修正をさせるべきであったし、
『どうしても修正しないというのであれば、不適正意見を表明するしかない』と言うべきだったのではないか」と語った。」
細野氏もだいたい同じようなコメントです。
「会計評論家で公認会計士の細野祐二さんも同様に「驚いた。(限定付適正意見は)制度上はあるが、実務上はないと感じていた。この場合、不適正意見を出すべきだ。会計士の矜持が問われている」と述べた。当初、2016年3月期決算を訂正させたうえで、2017年3月期決算に適正意見を出すだろうと考えていたという。「
間違っていたら直させるべきで、監督官庁がなぜ、受け取ったのか不思議でならない」とも言う。
そのうえで、この限定付適正意見について「東芝も、PwCあらた、金融庁も困らない決定だった」と解説し、「では、ゆがみがどこに出るのか。それは一般投資家ではないか。
正しい決算書を永久に見ることができない。大きな禍根になりかねない」。さらに、PwCあらたは、問題となった工事損失引当金について「6522億6700万円のうち相当程度ないしすべての金額」と定義したが、細野氏は「相当程度というのは半分なのか、それとも3分の1なのか。幅がありすぎる。これは文学的表現で、会計ではない。
もっと金額を特定するべきだった」と批判した。」
金額を特定できれば、それに越したことはありませんが、原発工事のコストを、会社の協力なしに外部者である監査人がピンポイントで算定するのは、不可能でしょう。
その他、いくつかのコメント部分を引用します。金融庁の自画自賛コメントもあります。
「 「自分たちが監査を引き受けた期間に損失が出たとなると、監査法人も責任を問われかねない」(会計士の一人)との指摘が出ている。特に、焦点となったウェスチングハウスは伝統ある米国の会社だ。「
米国の監査法人は厳しい。日本の比ではない」(専門家の一人)と言う。」
「金融庁幹部は、今春導入した
監査法人のガバナンスコードの影響も指摘する。このコードでは、現場の監査チームに任せるのではなく、法人という組織での対応を求めており、「早くも成果が出たのではないか。
木村さん(浩一郎・代表執行役)が先頭に立って対応していた」と言う。」
これはひどいコメント。
「そもそも、なぜ、東芝とPwCあらたはここまで意固地になったのか。「別に巨額な損失を隠したわけではない。
単なる期ずれの問題とも言える」(日本公認会計士協会幹部)との指摘もある。」
監査で問題になる5割以上(統計数字ではなく目分量)は、収益や費用・損失をどの期に計上するかという問題であり、「単なる期ずれ」という認識が大間違いです。会計士協会幹部とも思えません。東芝の場合でいえば、監査報告書によれば、2016年3月期は巨額損失を隠していたのだから、問題を矮小化すべきではないでしょう。
新日本への処分についての記述。
「業界の人たちが驚いたのは、金融庁の厳しさもさることながら、新日本監査法人が業務停止の期間中、営業部門だけでなく、セミナーの開催や研究・分析類も含めてホームページのほとんどを閉鎖したことだ。」
これは、権力を見せつけたいという金融庁の小役人根性の表れでしょう。金融庁がこういう些末な指導をしていたのと同じ時期(2015年末前後)に、金融庁(監視委)があえて調査の範囲から外していた東芝米原子力事業では巨額損失が浮上しつつあったわけですから、皮肉なものです。