ちびの聖者  読書

 ボリショイバレエ「白鳥の湖」大阪公演の覚え書きを断片的にメモしたけれど、日曜日は返却期限が迫る本を読むのに忙しかったです。

 アレクサンドロワのオデットは、グラン・アダージョの最後の部分、白鳥たちがV字型に並びはじめる少し前あたりから、オデットのもの言う声が聞こえてくるように感じられてよかったです。その前までは、まあ、グランアダージョのルーティン・ワークというか、クラシック・バレエのあまりにも有名なシークェンスをひたすら見とどけるのみ。

 そういう見せ場をすべて終え、センターに移動しながら、アレクサンドロワのオデットは「魔法から救われることなど望めないと思っていましたが、私のために命も惜しまないと言ってくれた、あなたを信じます」と、ふたりの運命を知っているかのように悲しげに。そう言ったように思えたときの、目元の美しかったこと。

 それにしても、アレクサンドロワはロシアのクラシック「白鳥の湖」に、どうしても収まらねばならないのかしら。


 《本日の読書》
 ちびの聖者
  ジョルジュ・シムノン 著
  長島良三 訳
  河出書房新社

 20世紀初頭のパリに生まれた無垢な魂の男の子、ルイの物語。著者シムノンはメグレ警視シリーズで一世を風靡したフランス人作家なんだと。
よ、読んだことない

 第1部「ムフタール通りの小さな男の子」は、彼の子ども時代。平易な文章でルイの目と心に映る家族や街の情景など、小さな世界が活写される。塵芥と汚物がどこにでも見かけられる貧しいパリの一画なのだけれど、シムノンは聖者の目というフィルターを通して、それを描写したのだ。だから、私はルイと同じように、彼の見たもの、感じたものに惹かれる。

 第2部「アベ=ド=レペ通りの小さな男の子」は、ベル・エポック時代の片隅に画家として生きたルイの物語。彼はムフタール通りの小さな男の子のままでありつづけ、でも全てがそのままではいられなかった…そこから伝わる苦味は、聖者のものではなくて読者の私が感じるもの。なかなかよい。

 20世紀初頭のパリは激変の時代。彼の住む小さな世界、そしてアート・シーンも何かと騒がしかったのだけれど、聖者は自分が探しているものを求めてひたすら絵を描く。

 ルイは年寄りになる。

ずっと以前から彼のなかに感じていたものを描き出すには、まだ数年かかるだろう。
「あなたの目標は本当のところ何なのですか?」
「さあ、知りません」
この言葉はルイの人生でしょっちゅう口にされ、くり返されつづけた。

彼にはわからなかった。わかるはずがなかった。さもなければ、最後までやり遂げることができなかっただろう。


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12月13日 大阪国立国際美術館前
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