幼児より、あまり絵本に興味がなかったお兄ちゃん・Tくんだったが、年長さんになったとき「月刊かがくのとも」の年間講読に巡り合わせ、『あしたのてんきははれ?くもり?あめ?』に見事ハマった。
色濃くマニアの血を引く彼はお天気記号?や等圧線や風力記号や気圧の単位「へクトパスカル」などを憶え、そのうちに毎朝新聞を広げ、天気図を見てから登園するようになった。
「お絵描き」も非常に苦手な子だったのに、その年度はじめての参観のときに壁に貼ってあった彼の絵は、現在まで見た彼の絵の中では、いまだにベストワンである。薄い紫が背景にあり、等圧線が引かれ、いろんな記号がちらばっている。タイトルは「おてんきよほう」。
その不思議な存在感。やはり、自分のなかにしっかり根付いているものは強い。きっと彼は理系なのだ。
先生も「いいでしょう、この絵。私のお気に入りなんですー」とおっしゃっていた。
また彼の幼稚園時代は、やたらNHK教育テレビが面白かったので、「このまち大好き」(中学年の地域をしらべる社会)や「さんすうすいすい」(低学年の算数)や「あいうえお」(言葉遊び満載の低学年の国語)などを、大笑いしながら視聴した。
番組を制作している人たちが、いかに現場で盛り上がりながら「めいっぱい面白くていいものをつくろう!」と意気込んでいるかが伝わって来るようだった。
ビデオにとってH氏にみせたら、彼にもまたウケまくり、いまでも
「『このまちだいすき』にでてた(普通の一般住民らしいたぶん本物の)お坊さん、役者やったなあ。お見合いして振られた役の(たぶん本物の)小田原市の職員さん、面白かったなあ」と我が家の語りぐさになっている。
番組の中で商店街のミーティングがあり、本物のお店のおっちゃんたちのわざとらしい素人芝居が、かえって微笑ましく、なんともいい味を出しているのだ。
「さんすうすいすい」には「ヤッターマン」の三悪のようなまぬけな悪者が登場するし、「あいうえお」では、言葉の修行の旅をする主人公を妨げる怪人や妖怪が行く手を遮り「回文」や「早口言葉」に勝てば通してやる、と自信満々で挑発するのだ。その怪人や妖怪は、あっけにとられるような芸達者な役者さんなので、もう子どもたちはおろか大人も釘付けになって爆笑するしかない。
そんな訳で全くの「娯楽番組」としてNHK教育をフルに楽しんだ。今にして思えば、受信料分の元を取ったなんてもんじゃなかった。元をとってあまりあった。
面白かったのは「サティ」(「イオン」や「西友」に類するお店)のなかを幼稚園児のTくんと一緒に歩いていたら、幼児教室の勧誘コーナーに呼び止められ、簡単なテストをされたときの事。
「ボク、これはなんていう形かな?」と、三角形を指差すお姉さん。
「直角三角形!」と答える幼稚園児Tくん。
絶句するお姉さんが、気を取り直して
「じゃあ、これは?」
すかさず「長方形!」
「・・・・・・」
驚愕の沈黙のあと、お姉さんは彼の母(私)に振り向いて、「どこか教室に通われてるんですか?」
まさか(笑)。「いえ、教育テレビです」
もちろんすぐさま解放してもらえた。うん、彼はやっぱり理系なのだ。
ところが、である。
あれから10年余たった現在、Tくんは高3になってやっと「理数から解放」されつつあるのを喜んでいる。はっきりくっきりと社会派の文系だったのだ。人生に潜む「どんでん返し」というやつである。
子どもの未来は、ある意味、先がわからないからこそ「面白い」。「わからない未来」が生活の中にあるからこそ、わくわくする毎日を送れるような気も、する。

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