久しぶりに河合隼雄さんの対談を読む。小川洋子さんとの対談は、次の対談を約束してありながら、河合さんが倒れられ、「次の対談」は永久に不可能になってしまったのだが。
未完の対談となった
『生きるとは、自分の物語をつくること』(新潮社)の小川さんのあとがきは、さすがに鋭い観察眼を持った作家さんだとひどく感心させられた。
心の病に苦しむ人たちは、河合さんに打ち明け、苦しみを分かち合うことができたけれども、では、河合さんは一体自分の苦しみを、だれに打ち明けることができたのだろうか? と、小川さんは問いかけていた。
そんなこと、考えもしなかった。河合さんはカウンセリングのプロ中のプロだから、ご自分の苦しみなんかないだろうし、自分でなんとでもできただろうなんて、無意識に考えていたのかもしれない。
対談の中で河合さんは「僕は地球にアースしていますから」とおっしゃっていて、クライエントから聞いたことに押しつぶされることはないのだろうけれど。
河合さんの冗談好きは有名だし、その著作を読んでも随所にお笑いポイントがあるので楽しいのだが、河合さんをそれほどまでに「笑い」に駆り立てるのは、一方で河合さんがいかに「苦悩」や「闇」を抱えていたか、ということではないだろうか。「笑い」(=救済)が一番必要だったのは、彼自身だったような気がする。
もしも「次回の対談」が成立していたら、そのテーマは
「ブラフマン」だったので、かなり哲学的かつ宗教的な話になっていそう。この幻の対談は、きっと小川洋子さんが作品の中で昇華してくださるだろう。それが、河合さんが彼女に残されたテーマなのだから。

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