『地サイダー読本』読了。読了、というほどには、字の部分が少ないのだけれど。
それでこの本に掲載されている限りでは、地サイダーの充実しているのが、東北と九州だということに気付いた。九州は、温泉も多いし、やはり南国だから需要もあるのだろうと思うのだが、東北でバラエティに富んだサイダーが作られているのが、意外だった。
それも『みしまバナナサイダー』とか『金華サイダー シークヮーサー』とか『共栄パインサイダー』とか、どうみても南国フルーツ味のサイダーが市民権を得ているようなのである。どう考えても東北地方でバナナやパインや、ましてシークヮーサーなどを栽培しているとは思えない。
この答は本書であかされている。東北の人々は昔は冬になると雪に降り込められ、口にする機会も少ないことも合わせて、南国のフルーツに憧憬と思慕を募らせていたようなのである。彼らの執念とも思える南国への憧れが、南国フルーツ味を希求したらしい。しかもそれらは、すべて大変おいしそう。
一方、九州のほとんどのサイダーは、あくまでそのサイダーそのものの味で勝負を賭けている。(宮崎のマンゴー味などはむしろ例外で最近のもの。老舗のサイダー製造所はボトル/ラベルに至るまで誇り高く気合いが入っている)
私がとても気になったのは
『謹製サイダァ』。一見まるで日本酒のようなボトルパッケージ。和紙ラベルに筆文字という純和風で上品な装い。ただものではない、と直感したが、はたして料亭や旅館、寿司店などにのみ販売されている格の高いお方なのだった。一般のお客には、それらのお店を通してしかお目どおりできない、やんごとなきお嬢様なのである。
他にも楽しい趣向が凝らされた地サイダーなども紹介され、たかがサイダー、されどサイダーという気分。あのしゅわぁっという音や、コッブの内側に付く無数の泡が、めくるめくほど爽やかな気分にさせてくれる、ファンタジーに満ちた飲み物なのである。
*追記:アーサー・ビナードさんの講演のあった夜、図書館職員さんで彼を囲むお食事会に出席された方がいらっしゃり、その方とゆっくりお話できる機会があったので(ふだんは忙しくてお話どころではない)、ビナードさん自身の講演の感想などを聞いてみた。
やはり、中学生のなかにも熱心に聞いていてくれた子も少数ながらいるのが、講演しているビナードさんにもわかっていたとのこと。自分の話が届く子どもたちがいた、ということで納得されておられたという話を聞いて、ああよかった!と、うれしく思ったことを報告しておきます。

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