通勤徒歩ルートは、ときたま目新しい路地裏などに入ったりして、気分を変えてみる。
滋賀県には飛び出し人形以外にも、他府県に抜きん出るものはある。知る人ぞ知るホーロー看板の宝庫らしい。
そのホーロー看板を玄関先に据えたまま、空き家になってしまった家に、ふと足を止めた。なんとなく家に呼び止められた感がある。帰りに写真を撮ろう、と決めた。
ホーロー看板、および木の牛乳箱、それに磨りガラスの向こうに映る手動式石油ポンプが、昭和の三種の神器のように佇んでいる。もう少し引いてみると、趣がやや異なって見える。
薬屋(置き薬)の名前が「堀回春堂」というのだ。このいかがわしさがなんともいえない。実家では、置き薬を使っていたので、この「スパーク」という風邪薬は、私も子どもの頃、飲んだ覚えがあるが、残念ながら私の体内ではスパークしなかったらしい。
それでもゆっくりと微熱時間が流れる一日の中で、本を読んだり、平日のワイドショーでオトナの世界をのぞいたり、ぼんやりと窓から空の雲や鳶が行き過ぎるのを眺めるのは、今にして思えばいいものだった。たしかにからだはつらかったにせよ。
まぁ、風邪は栄養のあるものを食べて、水分をしっかりとって、2,3日寝ているのが一番らしいから、下手に効くよりは、ゆっくり休養できていいのかもしれない。


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