ヴィシニョーワのすべて
日時:2006年12月3日(日) 午後3時開演
会場:フェスティバルホール(大阪)
出演:ディアナ・ヴィシニョーワ
マリインスキーバレエ団
演奏:マリインスキー劇場管弦楽団
指揮:アレクサンドル・ポリャニチコ
ピアノ:リュドミラ・スヴェンシニコヴァ
◆シンデレラより第2幕
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
振付:アレクセイ・ラトマンスキー
シンデレラ:ディアナ・ヴィシニョーワ
王子:イーゴリ・コールプ
継母:エカテリーナ・コンダウーロワ
義姉:タチヤーナ・バジートワ
義姉:ヴィクトリア・テリョーシキナ
ダンス教師:ジ・ヨン・リウ
:イスロム・バイムラードフ
ヴィシニョーワのすべて@大阪フェスティバルホールは、「海賊」よりも楽しみにしていた公演でした。ヴィシニョーワの魅力を堪能できる公演であり、見たことがない演目、もう1度よく見たかった演目が上演される公演だと思いましたから。
でも、会場に着くなりテリョーシキナ@ガムザッティの降板を知り(シンデレラの義姉は踊りました)、客席の空席の多さを見て、自分は「お〜はばにズレたバレエファンかも」という思いを強くしました。しょうがないなあ、私。
演奏が始まるなり金管がヘタレた音を出し、ヤレヤレもうはやからやさぐれかい?とおおいに盛り下がりました。幕が開き、ロングドレスとタキシードのコールドが踊っています・・・なんてつまらない。3年前にこの作品を見たときは、私には見る目がないからそのよさが分からないのかと思いましたが、この日は10秒以内につまらんと思いました。
後半にも同じ振付からフォークダンスみたいに2人で手を繋ぎ、列をなして靴音も高く延々とスキップで舞台上を回りました。気落ちが底打ちした場面です。
その底打ちよりも前になりますが、2幕の白眉、シンデレラの登場と王子とのパドドゥ(アダージオ)はとてもよかったです。プログラムにもヴィシニョーワは「2幕では(中略)このシーンがクライマックスというか、非常に重要な場面なんです」という談話を寄せています。
幕開きではコールドだけだった舞台上に王子、継母、義姉たちが出そろい、騒々しい連中がワラワラ〜と縺れて散ったかと思うと、そこに顔を両手で覆い隠し、1人立っているのはシンプルな白いドレスのシンデレラ。思わず乗り出しましたがな。
音楽は高音の弦と木管の奏でる甘美で抒情的なシンデレラのテーマ「愛の主題」。
ヴィシ、きれいでした。これまで観た中で一番きれい。まだ自分の美しさがどんなものか気づいていない娘の、身構えも何もないただまっすぐな立ち姿。心の中の不安が表情や手の動きに現われている、舞踏会への登場シーンです。プログラムの談話にこめられた、あなたの気持ちがわかったよ。
やがてコルプ王子と出会い、愛のテーマから切れ目なく続く「グランドワルツ」でパドドゥです。クラシックバレエの動きやポジションで振り付けられていたと思うのですが、とにかく動きの緩急や方向の転換がクラシックとは違う、複雑で予測しにくいものでした。それを、とても滑らかな軌跡ときれいなポジションで踊るふたり。コルプ王子の動きも、クラシックのグランパドドゥのように男性がひたすらサポート、というのではなかったです。小さなリフトやサポートを多用していましたが、ムーヴメントを2人がパラレルやアシメトリーで演じているように感じました。
しかし、いよいよふたりが愛を告白し合う場面では、このグランドワルツよりもドラマチックな雰囲気の音楽「王子とシンデレラのパドドゥ」が使われているのですがバレエの方は「なんかフツー」・・・でした。
モンテカルロバレエのマイヨー版シンデレラでは、このパドドゥで王子がシンデレラを高々と差し上げ、シンデレラは王子の両肩に手を置いて斜め逆立ちするという場面があります。ドーパミン放出を誘う音楽でもあり、期待したんですけどね。
しかもそれに続くエキセントリックなワルツも全くフツーで、「チャップリンのコスプレとしぐさを真似てみたけど失敗しちゃった」ような仙女がオレンジをばらまく12時の鐘のシーンは底打ちその2、かな。構想は悪くない、それもありかと思いますが、出来が悪い。
その他のダンサーでは、王子と継母がキャラ立ちしていて印象に残りました。コルプは作中の登場人物というよりは彼だけの役名「コルプ王子」でいくべきかも。たいへん希有な存在感を放つ、口ひげ、あごひげ、コワモテの王子でした。それでもあの白いヴィシニョーワと並んで少しもおかしくないから、このふたりってすごい。
これは私の主観ですが、コルプがダンサーとしてヴィシニョーワを思いやる気持ちを、カーテンコールの時に感じました。
継母は、ダンサーとしても演じやすいのかもしれませんね。大作りな美人で自分に自信があって、娘そっちのけで自分の売り込みを思い切りやればいい。そのパフォーマンスに苦笑いしながらも目が離せない、といったところでしょうか。
全幕としてのつまらなさを彷彿とさせる、たいへん残念なひと幕でしたが、グランドワルツはもちろん、継母や義姉、12時の場面など、誰かうまく編集&改定振付してヴィシニョーワに献呈してくれないかな。。。あり得ん?

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