ファルフ・ルジマトフが前日の大阪フェス「海賊」に続き登板するレニ国「白鳥の湖」となれば、これを観ずしてなんとしよう。踊りを見せるために生み出された海賊のアリと違って、こちらジークフリートは正統派白王子の原点その1。白はどんな色にでも染め上げられるもの。ダンサーによっていろんなカラーの王子が現われ、それが作品の魅力になっていると思います。いざ、ルジマトフの演じるドラマに立ち会おう!
レニングラード国立バレエ団・白鳥の湖
日時:2007年1月26日(金) 午後6時30分開演
会場:神戸こくさいホール
演奏:レニングラード国立歌劇場管弦楽団
指揮:ミハイル・パブージン
出演:オデット/オディール:オクサーナ・シェスタコワ
ジークフリート:ファルフ・ルジマトフ
ロットバルト:ウラジーミル・ツァル
王妃:ズヴェズダナ・マルチナ
家庭教師:アンドレイ・ブレグバーゼ
パ・ド・トロワ: オリガ・ステパノワ
イリーナ・コシェレワ
アルチョム・プハチョフ
大きい白鳥:タチアナ・ミリツェワ
アリョーナ・ヴィジェニナ
エレーナ・フィルソワ
マリーナ・バルエワ
小さい白鳥:ナタリア・ニキチナ
アレクサンドラ・ラツスカヤ
マリーナ・ニコラエワ
失念
2羽の白鳥:エルビラ・ハビブリナ
タチアナ・ミリツェワ
レニングラード国立バレエ団
今日の指揮者は若手のパブージンさん。管弦楽団は昨日に引続き金管の音もかき消す打楽器パートが心配でしたが、そこはそれ、ルジさんの舞台ですから、幕が開いたら度を超すこともなく。パブージンさんの指揮は群舞の場面でテンポが速く、またパドドゥのアダージョを弾くバイオリンが過剰なアゴーギグを披露することもなくて、わたし好みでした。
レニ国の群舞は、湖畔の白鳥や「海賊」花のグランパなど、幻想の場面で美しいラインを揃えることにかけては世界有数ですが、舞踏会や庭での祝宴といった現実の場面では、おとなしくてもの足りません。もっと生き生きした表情で、客席に向かって目線も身体の動きも投げかけるようなところがあればなあ。
1幕1場、王子の成年式の祝い。
王子が庭でご学友とくつろいでいるところらしい。レニ国のボヤルチコフ改訂版には道化がおらず、パドトロワはちょっと寂しかったです。でもここは王子が主役。少女漫画の美少年風にメイクしたルジマトフがさーっとジャンプして登場。調子がよさそうです。ほ〜っとしばらくその美少年メイクに見入ってしまいました。昨日のアリ(影ボスふうちょっと暗い目元)とえらい違い。白い顔に細い線で描かれた眉と瞼、紅をさした薄くて赤い唇、ウェットなカーリーヘアが一房はらりと顔にかかった相貌は、著しく現実離れしています。年令、性別不詳の艶めかしさを備えたミステリアスな人物か、きょうは。
しかし、母や友人の祝福に応え、談笑するお芝居には器の大きい人物らしい落ち着きと余裕を感じました。青年期の憂鬱を抱えてはいても、間もなくよき君主となるであろう、出来のよい王子を演じたようですね。
2場、湖畔の場面
ルジマトフとシェスタコワの演技は、王子とオデットのドラマをたっぷりと語っていました。シェスタコワは白鳥の女王オデットでした。湖畔の白鳥は、そのオデットが守ってやらなければならない妹たちです。身の不幸を嘆いてばかりはいられません。孤独なオデットの前にジークフリートが現われ、ふたりは初めて自分のために求めることをはじめるのです。ふたりが大人なので、観る側には深みのあるドラマチックな場面に見えるのだなあ。
2幕、結婚相手を選ぶ舞踏会は、ルジマトフの所作とお芝居、そしてレニ国民族舞踏団、1幕とは別人の笑みがこれまた魅力的なシェスタコワ@オディールのきっぱりとした強い踊りを楽しみました。
特に、ジークフリートがロットバルトの罠に嵌って誓いを立ててしまったと気づいたときに見せた、激しい後悔と怒りの表現にはビックリしました。しかも、ガバッと後ろを振り向いた背中だけでそれを見せちゃうんですよ。
私はこの場面の王子に人間の弱さとか無力を見るのですが、ルジさん@ジークフリートは強い強い。運命には勝てなくてもロットバルトはやっつけちゃうよね、これは。
3幕は湖畔に戻って悲劇の結末です。
以前この版を観たときは「何やってるんだか?」と思っているうちにジークフリートとオデットは水没、ロットバルトも腕をグルグル回して背景画もろともくずおれ、わけが分からなかったものです。でもこの日はよくわかりました。
ボヤルチコフ改訂版はオデットの運命に抗うために命を捧げるジークフリートを象徴的に振り付けたのだな(ジークフリートVS. ロットバルトがはっきりと見える「戦い」の様相で演じられる版もあります)。
ツァル@ロットバルトが、ここ一番の場面に中央で存在感を発揮し、効果的でした。上手にオデット、下手にジークフリートが同じ振付を踊り、中央でロットバルトが踊る。白鳥たちの列はふたりを隔てる壁になっていました。今年はしっかり観ましたぞ、この場面。
ふたりは滅びたのではなく、結ばれて湖水に沈んだのでした。救いが設けられていて、純然たる悲劇ではありませんね。
そうして今年のルジさん神戸降臨は幕。優れた役者にして弁者、化けて麗しきルジさんが目も心も喜びで満たしてくれました。現在のルジさんの魅力をしっかり体験し、これからのルジさんに抱く期待も新たにしました。大収穫!
次のルジさんの舞台はもちろん、レニ国の未だ観ていない全幕ものも楽しみです。

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