◆2007年5月16日、朝日新聞 大阪 夕刊より引用
Noism 07「PLAY 2 PLAY - 干渉する次元」
表現者同士の妥協のない融合 ― “Play”という言葉から4人のクリエイターが振付、舞台装置、衣装、音楽を自由に創作し、それを持ち寄って見いだしたキーワード「干渉」を手がかりに舞台作品に仕上げたという。振付家、金森嬢は「自分では思いもよらない着地点に至り、コラボレーションの醍醐味を味わった」とのこと。◆引用終わり
日時:2007年5月19日(土)
開演:17:00
会場:兵庫県芸術文化センター 中ホール
■出演者 Noism 07
青木 尚哉 石川 勇太
井関 佐和子 佐藤 奈美
高原 伸子 中野 綾子
平原 慎太郎 宮河 愛一郎
山田 勇気
■スタッフ
構成・演出・振付:金森 穣
空間:田根 剛
音楽:Ton That An
衣裳:三原 康裕
私が金森穣さんの作品を観るのは、昨年12月の“black ice ver.6”以来2度目です。金森作品の鑑賞経験がほとんど無く、‘black ice’の印象がフィルターになっていることもあり、観客としては「思いもよらない着地点」を味わうところまではいきませんでした。衣装や美術、音楽が違っても、PLAY 2 PLAY は‘black ice’の延長線上を行く舞台作品なのでは、というのが正直な感想です。
もちろん、作品のボリュームは期待通り大きいものでした。4人によるクリエイション+ダンサーのエネルギーが舞台に載って観ごたえがありました。休憩無しでおよそ75分。私にはちょっと長く、途中で(2分くらい)うたた寝しました。でも、キーワード「干渉」は観とどけられたと思います。
舞台装置は3メートル超の鏡張りふう三角柱9本。1列に並べて立てると、ちょうど舞台幅いっぱいくらいです。これらは上演中、ダンサーによって少しずつ位置を変えられ、舞台上の場に変化をきたします。照明によってその柱の向こうが透けて見えたり、見えなくなったりします。床は白、舞台側面と後ろは真っ黒ですが、後ろの壁は四角く切り取られ、その横長のトンネルの中に80の舞台上席がしつらえてあります。照明は主に白色でした。
衣装は濃紺と薄い褐色の布をひとりひとり違うデザインで縫い合わせたユニタード、またその上に濃紺のシンプルなシャツ、パンツを付けて登場することもあります。
ピアニストTon That Anの音楽は奇抜なものではなく、最初に聞こえる美しいチェロの旋律をはじめとして、ピアノなど馴染みのある耳に快い音で構成されていました。もちろん、緊張した場面やダンサーが激しく動く場面では打楽器や電子音も効果的に使われていたと思います。
この作品は井関佐和子さんを中心に展開していきます。幕が開くと、下手前方で彼女がひとり、間もなく宮川さんが現われ、井関さんはそれに気づく。そして表情を変えない彼をじっと伺います。ここから様々な「干渉」が展開していきます。
彼女のフォルムがとてもきれいなのに惹かれました。コンテンポラリー・ダンスらしい、ポジションにとらわれないムーヴメント。クラシックとは異質の柔らかさを感じました。
次々に現われるダンサーたち。出逢いの瞬間しばしの躊躇や相手を伺う間はあるものの、男性は次第に追う者となり、女性は直感的な危機感に突き動かされて逃げる者となる。そして女性は圧倒的優位の「力」をもって捉えられる。やがて単純で荒々しい関係性が少しずつ複雑に演じられていきます。最初は男性ひとりと女性ひとり、男性たちと女性、そして集団とひとり…というふうに。
「干渉、あるいは軋轢」。人と人が出逢い、近づけば近づくほど、そこには摩擦が生じる。パフォーマンスを見ながらそんなことを実感しました。しかしここが長い。「このままでは済まないはず。早く展開してくれ〜zzz…」。
ふと気がつくと、ミラー板の三角柱は舞台中央で砦のように囲いを作り、その中が透けて見えていました。ダンサーたちは、ニットのセーターのようなものが上半身に絡みつき、それがみな一続きに繋がって不自由そうに身をくねらせています。おお、摩擦でみなこんがらがっちゃったか。
しまいに、井関さんひとりが他のダンサーたちの動きに恐れを感じながらも、かかわることをやめようとしない挑戦的な試みを、角柱の中に走り込んでいく動きの繰返しで表現します。そして「春の祭典」の「選ばれし乙女」のように、捕まり、ミラー柱の砦に閉じこめられ、寄り集まった彼らの中央で高く持ち上げられる。
いやもう、ここまででじゅうぶん「干渉する次元」だったと思います。しかし作品はまだ続きます。
ダンサー9人、即ち出演者全員がひとりひとつずつ、ミラー柱を上手側にエイコ〜ラと重々しく押しながら入って行くのでした。このシーンは、場面転換としてとても有効でした。全員が何かを担って去って行き、その場が無になって終わる。ここから先は、観客ひとりひとりに委ねて暗転かホワイト・アウトにしといてほしかった。
場面転換のあとは観ている私の集中力が切れてしまいました。舞台は何らかの開放(発展?)を得たらしいダンスがくり広げられ、終幕は冒頭と同じ、井関さんの「前へ進むわ〜」というエピローグまで。とりあえず見とどけました。
‘black ice’でも感じたのですが、人の心と心、または身体と身体が近づき、認識し合ったとき、その間に生じるものをダンスで表現していくのが、金森さんのテーマのひとつかな。独白風でなく、内向的でもない。永遠の青少年がそろったカンパニーですから、こういう作品がよく合っていると思いました。
これからも再演を重ね、完成されていくところを観ていきたい作品です。
アフター・トークでの質問から
詳しくメモしていないので、言葉使いが違っているかもしれません。
◆クラシック音楽ファン〈男性)
チェロやピアノなどを使って美しい音楽でした。途中から、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を思い出しました。今回はこの作品のために作曲された音楽を使われていますが、金森さんは今後、既成の音楽に振り付けるということは考えておられますか。
◇金森さんの答え
考えています。「春の祭典」は、多くの(バレエ・ダンス)マスターが振り付けている作品ですから、僕も時期が来たら…と。
◆建築関係の仕事をする男性
舞台装置に注目していました。(作品を作る過程で装置はどのように関わったのか)
◇金森さんの答え
初日の1ヶ月前に装置の枠だけが入りました。まずその枠を使って作品の振付、構成を進め、初日2週間前にボードを付けて舞台に上げ、照明を当てて仕上げていきました。これができるのは、Noismがレジデンシャル・カンパニー(劇場専属のダンスカンパニー。作品の製作、リハーサルを劇場の舞台でできる)だからです。普通は本番の1日前に劇場に入るので、その時初めて照明を当ててやってみたのでは手遅れです(試行錯誤に時間を費やせない)。
◆舞台上席を設けた意図は?
◇金森さんの答え
舞台装置の田根 剛が、ダンサーを近くで観ることに注目して提案した。それで近くに客席を置くならば、正面ではなく反対側を見せることにし、振付をした。
◆小学生の女の子
私はクラシックバレエを習っています。コンテンポラリーの勉強はまだ少し(1年?)しかしていないので、今日の作品の「物語」がわかりませんでした。小学生の私にもわかるように説明してください。
◇平原 慎太郎さんの答え
学校には正解があるけれど、ダンスはそうじゃないんだよ。
◇金森さんの答え
わからなくていいんだよ。いつか「あ、そうだったのか」って、思うときが来るかもしれない、それでいいんだよ。
りゅーとぴあ Noism07
外部振付家招聘企画第三弾
新作 W - view
企画:金森穣
振付:安藤洋子(現フォーサイス・カンパニー)
中村恩恵(元ネザーランド・ダンス・シアター)
出演:Noism07(金森嬢を含む)
製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
公演日時
新潟公演:2007年10月5、6、7日
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
東京公演:2007年10月13、14、15日
Bunkamura シアターコクーン
他、福岡・岩手・札幌公演あり

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