エディターズ・ミュージアムR 小宮山量平先生 2013.2.23掲載
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれて−私の図書館修業時代』と題して連載をしている内容の一部を、ご本人の承諾を得て転載しています。
エディターズミュージアムの小宮山量平先生の机の上には、昨年4月に亡くなる間際まで取り組まれていた作品、「エスポワール(希望)」というタイトルの原稿が置かれています。
希望、なんとよい響きでしょう。この先どんなふうに筆を進めるおつもりだったのか。その文字を見ながら先生の声音を思い浮かべ、希望が湧いてくるような気がするのです。
講演会などで話を聞いてもメモも取らぬ私でしたが、先生の講演はメモを取り年表や地図を広げて確認していました。後日、その乱雑なメモからお話が甦り、決して難しくない表現なのに内容は広く深いことに改めて驚いたものです。そして私のような者のなかに眠っていたものまでが引き出され、目覚めさせてくださったように思うのでした。
先生に初めてお会いしたのはいつのことだったか、講演会のときではなかったはずです。いろいろと振り返るうちに、とても鮮明に思い出される記憶がありました。怖いもの知らずの生意気盛りのころ、食べっぷりがよいということで市内の食べ物屋さんやお菓子屋さん、造り酒屋さんなどを取材して書くように言われたことがあります。『信濃路』という季刊誌を出していた、長野市内の出版社の企画でした。その雑誌は巻頭に詩を配し、県内の名所旧跡や名産品、おいしいお店やうまい酒など多岐にわたる情報を満載したものでした。
エディターズ・ミュージアムS 小宮山量平先生 2013.3.2掲載
雑誌『信濃路』の魅力的な仕事を持ってきてくださったのは、故小崎軍司さんでした。昼食をご一緒してラーメンを食べた後「コーヒーを飲みながらホットケーキを食べませんか」などと言う私を「よく食べるねえ」と面白がっていたようです。
上田市内のお店を回りましたが、そのなかに若菜館がありました。前もって伺う日をお知らせして参上すると、若菜館の相談役でもあった小宮山量平先生が奥様とふたりで待っていてくださったのです。おいしい鰻重を用意していただき、温かな気遣いに緊張のあまり喉を通らないなんてこともなく舌鼓を打ち易々と平らげました。奥様は微笑みながらお茶を淹れてくださいました。
上田が蚕糸業の盛んだった頃、上田駅界隈は蚕糸にかかわる商人や農家の人たちで賑わい、その人たちが鰻を食べに若菜館ののれんをくぐったとのこと。当時は店の北側を流れる川に鰻が上ってきて、たくさん獲れたそうです。また鰻の秘伝のタレは代々女将さんに受け継がれているとお話ししてくださいました。その時のメモが残っていたらと思うのですが、ほかにもいろいろお聞きしたのに、食べることばかり覚えていてあとはぼやけています。40年ほど前のことです。
そうそう、おいしいコーヒーの飲み方も先生に教えてもらいました。コーヒーをスプーンでかき回して渦巻き状にし、濃いミルクを注ぐという方法でした。