エディターズ・ミュージアム㊲ 宝塚公演 2013.6.29掲載
当エディターズ・ミュージアムスタッフの山嵜庸子さんが、地元紙「週刊上田」に『本の森に囲まれて−私の図書館修業時代』と題して連載をしている内容を、ご本人の承諾を得て転載しています。
児童文学として世界のどこに出しても通用すると絶賛された『星の牧場』は、サンケイ児童文学賞・野間児童文学賞・児童文学者協会賞など数々の賞を受賞しました。 エディターズミュージアムには栄えある受賞の際の記念品が置いてあります。そんなふうでしたからこの作品は、ラジオで度々朗読されたり、ラジオドラマやラジオミュージカルになりました。また小山祐士さん脚色の芝居が劇団民藝で演じられ、好評を博しました。
庄野英二さんと学生時代に哲学科の教室でいつも人生について、童話について語り合ってきたという脚本・演出家の高木史朗さんは、『星の牧場』が出版されたときから宝塚で上演できないだろうかと、その日が来るのを強く望んでいたとのこと。その夢がかなえられることになった喜びを、宝塚歌劇星組公演のプログラムのなかで語っています。宝塚ファンの方々でしたら、よくご存じでしょう。「イシザワ モミイチ」を鳳蘭が演じています。ほかには安奈淳・大原ますみ・牧美佐緒・松あきらなどの名が並んでいます。私も観にいきたかったなと思いました。
公演にあたっての、庄野英二さんと高木史朗さんのやり取りが愉快です。
「モミイチになる鳳蘭君が美人過ぎて困っているんだ」
「私の原作にはモミイチが不細工な男であるなどと一言も書いてありません」
エディターズ・ミュージアム㊳ 鳳蘭さんのモミイチ2013.7.6掲載
星の牧場』を脚色・演出して宝塚歌劇団星組で公演させた高木史朗さんが、モミイチを演ずる鳳蘭が美しすぎて困ると言うと、庄野英二さんは「彼は明らかに誤解しています。『星の牧場』の主人公モミイチは庄野英二ではないのです」と返しています。
それほどに鳳蘭は素敵だったのでしょう。当時(昭和46年)の読売新聞ステージ欄では、―鳳蘭は類型的な二枚目ではなく歯の白さが目立つほどの黒塗りでタオルなんかぶらさげて、何となくおかしくてかなしい動きと物言いで「モミイチ」の素直さ、やさしさをからだじゅうで表現しそこに新しさがあった。とくにクラリネット、バイオリン、ビオラとの出会いの部分のアイデアと演技が出色でモミイチのみならずこちらまでうれしくなって物語に引きこまれた。原作のヒューマニズムをあますところなく伝えている―と書かれています。私ならずとも、宝塚歌劇団公演を観たかったと思われるのではないでしょうか。
昭和46年4月1日現在の宝塚歌劇団生徒一覧表を見ると、舞踊専科に天津乙女、ダンス専科に司このみ、演劇専科に春日野八千代、声楽専科に真帆志ぶきと加茂さくらの名が見られます。これら錚々たる面々が、このころ活躍していたのだと感慨を覚えました。
さて、モミイチとツキスミは会えたのでしょうか―幻想的な物語にふさわしい最後が描かれています。