エディターズ・ミュージアム83 まどみちおさん 2014.5.17掲載
まどみちおさん、という名前より「ぞうさん」「ふたあつ」「やぎさんゆうびん」など、耳から入ってくる歌、童謡詩の方が私の場合お馴染みでした。日頃、歌ったり聴いていた歌の作者が、まどみちおさんだと知ったのはいつのことだったでしょう。山村育ちの私の周囲には保育園もなかったし、まどさんの歌を歌った覚えもありません。それがいつしか、まどさん、まどさん、と親しんでいました。
「ふたあつ」
ふたあつ、ふたあつ、
なんでしょか。
おめめが、一、二、
ふたつでしょ。
おみみも、ほら、ね、
ふたつでしょ。
ふたあつ、ふたあつ、
まだ、あって。
おててが、一、二、
ふたつでしょ。
あんよも、ほら、ね、
ふたつでしょ。
まだ、まだ、いいもの、なんでしょか。
まあるい あれよ、
かあさんの、
おっぱい、ほら、ね、
ふたつでしょ。
なんと優しく、やすらぎのある詩でしょう。なんと面白い展開でしょう。私が好きな歌(童謡詩)のひとつです。よくこんなふうに言葉を並べることが出来るな、と感心します。
これは昭和11年(1936)、まどさんが27歳のときの作品です。そしていつの間にか
山口保治による曲がつけられ、キングレコードから発売されたといいます。
エディターズ・ミュージアム84 まどみちおさん
2014.5.24掲載
詩「ふたあつ」は昭和11年、まどみちおさん27歳の作。今読んでも少しも古めかしく感じません。
曲がついて流布されるようになった最初の作品だったとか。童謡としては初期の作品であるにもかかわらず、完成度が高いと言われています。
「ぞうさん」も誰もが知っている歌でしょう。どちらにも「母さん」が出てきますが、まだあります。まどさんが台湾から雑誌『コドモノクニ』に投稿した作品です。当時、北原白秋、西条八十が選者を務めており、白秋に推奨され特選に2編が入ったうちの一編です。
雨ふれば
雨ふれば
お勝手も
雨の匂いしている。
濡れた葱など
青くおいてある。
雨ふれば
障子の中、
母さんやさしい。
縫物される針
すいすいと光る。
雨ふれば
通りのもの音、
ぬれている。
時おり
ことり などする。
そして「父さん」のうたもあるのです。
父さんお帰り
金魚色した/西日みち/蜜柑の皮が/おちていた//蟻がぐるぐる/歩いてた/それを見ながら/ひとりボク//父さんお帰り/待っていた/シンとしていた/天も地も。
母に対する思慕の念は言わずもがなですが、父のことも書かずにはいられなかった深い理由があったのです。