エディターズ・ミュージアム91 まどみちおさん2014.7.12掲載
まどさんは昭和12年、文通仲間の水上不二たちと同人誌『昆虫列車』を創刊します。昭和13〜14年が全盛期だったようですが、3年たらずで廃刊となりました。
昭和15年5月、内地では内閣府情報部に新聞雑誌用紙統制委員会が設置されており、印刷用紙の統制と出版社や雑誌新聞の統廃合が進行していた時代でしたから、『昆虫列車』が廃刊になったのも当然のなりゆきといえます。
まどさんは『昆虫列車』にどんどん作品を発表しながら、他の文芸誌や雑誌、新聞などへも投稿しました。投稿先のなかには信濃毎日新聞の名も見えます。まどさんはこの時期、百十余編を投稿したといわれています。
まどさんのことを本欄に最初に書いたとき、詩「ふたあつ」を紹介しました。同じく初期の作品とされる、新緑の季節にこそ読んでほしい一編を記します。
樹
樹は土に立っている
樹はそこから歩かない
樹は空へ向いている
土がにじんだのであろうか
その幹の色と匂い
空がしみたのであろうか
その新芽の色と匂い
きっとその根は土になってる
そして枝先は空に溶けてる
樹は土のように静かだ
樹は空のように明るい
樹は樹で生きている
エディターズ・ミュージアム92 まどみちおさん 2014.7.19掲載
まどさんの詩「樹」を前回、紹介しました。この詩は昭和10年に発表されています。
「樹はそこから歩かない」を目で追いながら、あたりまえのことじゃないかと思うより先にハッとさせられました。続く「樹は空に向いている」で気持ちが高揚してゆくのです。読み進めていくうちに次の詩に出会いました。「樹」から3年後の作品「一ぴき麒麟(きりん)」です。
一ぴき麒麟
一ぴき麒麟、
朝日に ひょろり、
のびたよ、立った。
表か、裏か、
すがしい 体、
一ぴき 立った。
お頭が、ほうら、
お空で ついた、
新芽の 駅に。
食べよう 食べる、
ねえ、ねえ新芽、
食べよう 食べる。
一ぴき 麒麟、
さみしい麒麟、
食べよう 麒麟。
この詩は童謡詩の範疇に入るのでしょうか。幼い子にもわかる言葉で、深さがあると思いませんか。
まどさんは昭和13年、一時母校の台北工業学校に助手として就職します。その秋、総督府時代の上司に求められ台北州庁土木課へ再就職。患っていた眼は回復しましたが、上京の熱意は失せてしまったようです。
しかし創作活動は旺盛でした。そのなかに注目された散文詩「少年の日」があります。