2020/12/23
なんだかうやむやなままこの一年が終わろうとしています。
「学問の自由」への介入───。
不安が胸をよぎります。
思想統制への流れがしのび寄ってくるような怖さを感じるのです。
信濃毎日新聞がこの夏、8月15日を前に「思想監視─公文書・記録は語る─」という特集を組んでいました。
7回に渡った記事を切り抜いて、それが今私の手元にあります。
はじめにこう記されていました。 言論、思想の自由が市民から奪われ、たどり着いた先の敗戦から75年。語り継げる人は少なくなってきたが、今でもわずかながら明らかになる公文書や記録が当時の経緯や空気を伝えている。
新型コロナウイルス感染拡大で「同調圧力」が強まる今年。感染症対策を巡り、政府をはじめ行政の記録は十分に残されておらず、後世につなごうとする姿勢が乏しい。
過去の状況を再現したり、判断を検証したりできる記録の意味に焦点を当て、戦時下の「思想監視」を見る。 (渡辺 知弘) 第一回目の記事の内容は1933年の「二・四事件」の公判記録から判明した事件の詳細について。
思想弾圧の実体とともに、公文書を軽視する現在の行政への批判も記されています。
「二・四事件」、いわゆる「教員赤化事件」については、父がたびたび語っていました。
著書『千曲川 第一部』では、“ぼく”に語らせています。 (前略)
けれどもぼくの心にがつんと強くひびいたのは、ずいぶん久しぶりに届いた上田西小学校時代の友人・田中弘毅くんからの便りであった。あの柳澤先生のクラスでは、ぼくのいちばんのライバルであった。
順調な進学組だから、今や上田中学の四年生だろう。その大人びた文字や男らしい文章が、まる五年以上ものへだたりをものともせず、ぴしっと、矢のようにぼくの胸を射ぬいた。
元気か? ぶじに生えそろったか? おれも上中の四年生になって、しっかりといばってやっている。西校柳澤組の仲間たちは、太田も、市川も、渡辺も、みんな元気だ。
今日手紙したことについては、同封のガリ刷りを見てくれ。新聞はどんな発表をするのか知れないが、事実はひどいもんだ! 発表の何倍もの先生が、片っぱし引っぱられ、おどかされている。『赤い鳥』を読んでいただけでアカだ。『白樺』に書いただけでアカだ。
いずれまとめて抗議するはずだが、差し当たって先生方を元気づけなければならない。
家族には激励が必要だ。特に学校に残っている先生方には、びくびくせぬよう便りをしてやってくれ!
おれもあと一年で東京の学校へ出て行くが、信州教育の誇りを守りつづけるように、その道へと進むつもりだ。迫り来る危機の中で、自由を守りぬこう!!
そんな活気にみちた便りと共に、二月五日以来、少しずつ小出しに発表されている例の〈長野県教員赤化事件〉なるものについて、地元の小学校教育に加えられつつある弾圧のあらましが、ガリ版刷りで報じられている。
諏訪から安曇野にかけての弾圧を中心に、伊那谷へ、佐久平へとその手はひろがり、わが上田小県盆地も決して少なくはない。全県的に検挙者の網の目はひろがり、中にはその名を知っている学校や教師も列挙されている。
「ひどい!これはひどいもんだ。いちばん進んだ信州教育を〈いけにえの羊〉(スケープ・ゴート)にすることによって、日本じゅうの初等教育の息の根を止めようっていう魂胆がれっきとしている!」 (後略) 映画「母べえ」(山田洋次監督)の試写会のあとで語った父のコメントが遺されています。(“シネフロント” 2008年2・3月号) (前略)
まず、昭和が始まってすぐに「3.15」、つづいて「4.16」が起こります。大正の末ごろから、いよいよ日本でも社会主義に目覚める層が増えてくるだろうということがはっきりしてくるにしたがって、日本の権力が用意したのが「治安維持法」です。
昭和3年(1928年)3月15日に一夜にして1600人を、翌4年(1929年)にもうひと網打って、けしからん思想を持つ人たちを一網打尽に検挙するということをやった。
そして、日本国内の不平不満のはけ口を満州にもっていけば解消するだろうと、満州へ兵隊さんを送りこんで「満州国」という国をつくります。
その手始めとして昭和6年に満州事変がはじまるのですが、それを始める準備として「3.15」「4.16」で赤狩りをやったわけです。満州事変から敗戦までの昭和20年まで正味15年間、日本は中国をはじめ、アジアの国々との戦争を拡大していきます。 そして、こう続けます 昭和8年2月5日に長野県ですべての小学校教員をアカ呼ばわりして、200人近い先生を捕らえました。文化に対して政治の手が直接伸びてくる状態をファシズムと言いますが、このファシズムが猛威をふるう時代となるのです。 「同調圧力」───。
マスクをしているかいないかを責め合っているだけではすまないのです。
ひとつの国が戦争へ向かおうとする時、何が起きるか、今忍び寄ってくるものに敏感にならなければいけません。
“あのころとそっくり”───。
コメントの中にあった父のことばが胸にささります。2020年のおわりに 荒井 きぬ枝
投稿者: エディターズミュージアム
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