【九州男児エッセイ】
What’s Reason of Working?
〈イントロ〉
人生80年として、24時間×365日×80年=70万時間。大学を新卒で卒業し、60歳で定年を迎えると38年間が就労期間。一日10時間仕事をするとして、10時間×5日×50週×38年=9万5千時間。実に人生の14%は「働いている」ことになる。職種・業種・地位などで大きな差があるだろうが、14%という数字はまあ標準的な値ではないだろうか。
人生の14%(7分の1)を働いて過ごす、と聞いてあなたはどう感じるか?「えっ、そんなに長いの?」「たったそんだけ?」受け止め方は人それぞれだろうが、いずれにせよ人生において「働く」ということは大きなウェイトを占めることは間違いない。
なぜ、人はそんなにも働くのか?あるいは働かねばならないのか?ということで、今回のテーマは「What’s Reason of Working?」(人は何のために働くのか)。
〈ERG理論+高橋理論〉
心理学者アルダーファーが編み出したERG理論。彼は人の欲求をE(Existence:生存)・R(Relationship:人間関係)・G(Growth:成長)の3つに集約した。高橋俊介(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授)は、働く動機を上昇系(上記Gに相当)・人間関係系(同R)・プロセス系(新しいアイディアを考えることが好き等、仕事の過程そのものが動機)の3つに分類した。
アルダーファーの理論を働く理由にあてはめると、高橋理論における「プロセス系」(P)が表現されていない。一方、高橋理論にはアルダーファーの「E」が欠けている。両者を合体した「ERG+P」で、全ての働く人々の「働く理由」が説明されるのではないだろうか。
すなわち、E:生存/生活のため、平たく言うと「カネ」のためR:人間関係のため、例えば「あの上司のために」「職場の仲間のために」または「お客様のために」G:成長のため、あるいは自分の目標に向かってのいちステップ(自己実現)P:仕事のプロセスそのものを楽しむ、そこにやりがいを感じる。この4つである。
ここまでは本に書いてあることを転記して組み合わせたに過ぎないが、ここからはもう一歩踏み込んで、「ERG+P」の4要素がそれぞれ全体のどれくらいの割合を占めるのかを考察したい。
〈ERG+Pの比率〉
・パターン1:新卒型)E20%、R30%、G50%、P0% 独身者がほとんどで、扶養家族がいない・持家等のローンも無いためEは小さい。将来の希望に満ち溢れているため、Gの割合が高い。一方で仕事を覚えていないのでPはほぼ0。人間関係にドライな者はRがもっと低く、代わりにEかGが高くなることも。
・パターン2:中堅社員型)E30%、R25%、G20%、P25% 数年の経験を経て、そろそろ結婚も視野に入ってくるのでEの比率が上昇。 一方で自分の能力の限界や社会の厳しさも分かってきて、入社時の高い理想がしぼみGが下がる。仕事を覚えてきたので自分なりのやりがいを見つけ、Pが上昇。いわゆる「仕事を覚えて、楽しくなってくる時期」。
・パターン3:一人前型)E40%、R10%、G20%、P30% 社会人10年目くらい。結婚・出産・持家などでEは高くなる。人間関係もソツなくこなせるようになり、そのためRは相対的に低下(重視しなくても円滑な関係を構築できるようになる)。専門分野のプロとして仕事をバリバリこなせるようになる。ここで更なるキャリアアップ(自分の専門を究めようとする)を目指すと、G30%・P20%になるが、大抵のサラリーマンは「将来どこに異動するかわかんねーよ(今の専門を究められるかどうかなんて、会社が決めること)」という思いがあるので、G<Pになる。
・パターン4:中間管理職型)E45%、R40%、G10%、P5% 20年目以降。子供の教育・親の介護等々でEが上昇。また多くの部下を抱えるようになるため、Rが急上昇。その結果、GとPが極端に小さくなってしまう。EとR(このパターンにおいては家庭・会社における責任の増大とも言い換えられる)に押しつぶされることなく、GとPを維持し続けることが出来た人だけが、次のステージ(パターン6以降)へ進むことができる。
・パターン5:スペシャリスト型)E40%、R5%、G30%、P25% パターン1〜3からいきなりここへ移行するケースもある。また、パターン4からこちらへ転じるケースも。自分のスキルに絶対の自信を持ち、会社を転々とすることも辞さない。人によってはEだけが異常に高かったり、逆にG+Pが高かったりすることもある。世界が狭い職種の場合、意外とRが重要であったりもする(例:プロ野球の選手)。また、「経営のスペシャリスト」「営業のプロ」などでRが高い場合もある。
・パターン6:あと一歩で夢をつかむぜ型)E0%、R10%、G80%、P10%「役員就任が間近の部長」「グラミー賞にノミネートが確実なミュージシャン」など。報酬など度外視して働く、もしくは当面食っていけるだけの貯えが既にあるのでEは0。R・Pもそれほど重要ではない。とにかくGが全てと言っても過言ではない。「新任役員」「今年のグラミー賞受賞者」など、夢をかなえた直後の人も実はこのパターンに入る。
・パターン7:功成り名を遂げた型/別名 ご隠居型)E10%、R50%、G20%、P20% 「長年勤めた会長職を退いた顧問」「一代で築き上げたNASDAQ上場企業を後継者に譲り、自らは巨万の富を得てハッピーリタイアした起業家」「定年退職後、嘱託として再雇用されたベテラン」など。 一生(といっても余生は残り少ないが)食うには困らないだけの資産があるのでEは少ない。
一方、「後進のため」「社会のため」「故郷のため」「母校のため」といった報恩の思いが強いのでRが高くなる。それを目標/やりがいにも感じるのでG・Pもある。ボランティアなど、奉仕精神が高い職業もこのパターンである。
・パターン8:落ちこぼれ型)E100%、R0%、G0%、P0% パターン1からここへ転落する可能性がある。 仕事が全くできず(えてして人間関係もうまく構築できない)、周囲にも見放されており、開き直って「会社にしがみついている」状態。R・G・Pがほとんど無く、Eの比重が極端に高いのが特徴。中小企業では早々に解雇されるのだが、大企業では意外と生き残っていたりする。これにだけはなりたくない。
・パターン9:人間関係お悩み型)E50%、R0%、G10%、P40% パターン1〜6からここに陥る可能性がある。 上司・同僚・部下・顧客等との人間関係に悩んでいる状態(職場恋愛含む)。よってRは0。将来への希望も持てないのでGも下がる。Gが低い分、仕事の小さなプロセスにやりがいを見出そうとするのでPは高くなる。
実は2年前、軽いうつ病にかかった筆者はこの状態だった。
・パターン10:カベぶち当たり型)E30%、R50%、G10%、P10% 仕事で伸び悩み、大きなカベにぶち当たっている状態。例えば「担当しているプロジェクトが思うように進まない」など。人間関係に救いを見出そうとするのでRが高くなる。これもパターン1〜6からここに陥る可能性がある。
・パターン11:茶飲み友達型)E20%、R70%、G5%、P5% 夫に安定した収入があるが、子育てが一段落して時間を持て余すので、パートに出ている中年の主婦が典型例。
・パターン12:昔の夢よもう一度型)E20%、R10%、G60%、P10% 結婚退職でキャリアウーマンの道を一旦は離れたが、育児から解放され、資格取得などに燃える中年の主婦。パターン11に似ているが、こちらはキャリア志向。または「再起を図る元社長」のイメージ。
・・・以上を整理すると、
・Eは全12パターン平均で34%と最大。当然の結果か。
・Rは同25%。極端に低いのは職場への帰属意識が薄いか、それ以上の優先事項がある場合。
・Gは同26%。ビジネスマン人生の最初とほぼ最後に相当するパターン1・6・12のみ高い。
・Pは同15%で最小。自分の心の持ち方一つで、やりがいはいくらでも見つかるハズだが・・・。
〈筆者の経験〉
筆者は製造業入社9年目。新卒入社〜7年目までは一貫して生産管理畑。7年目に度重なる短期の転勤と上司との不和と業務の能力オーバーが重なって軽いウツ病に罹患。3か月の休職を経て、経理部門に異動。現在に至る(今のところウツは再発せず)。
パターンとしては1→2→9→2と変化して、もうすぐ3になろうかどうか、というところである。この先、自分がどのパターンを歩むかは分からないが、結果的に3→6→7になれば理想だ。間にパターン4が入ることは避けられないのだろうが・・・。
〈あなたのやりがいは何ですか?〉
筆者の場合、やりがいは下記に集約される。「徹底的に考え抜いて先を読み、周囲を巻き込んで手を打ち、それが的中する」。この時の快感ほど得難いものはない、と個人的には思う。何の仕事であってもこれは得られるものであろう。そういう意味では、筆者はPの割合が比較的高いほうなのかもしれない。あなたのやりがいは何ですか?
〈あとがき〉
構想4か月、下書き1時間、清書3時間。働く理由の最大公約数であるE・R・G・P4要素の比率を変化させ、各パターンがどういう状態に相当するかを自分なりにあてはめてみた。その作業における論拠は、自分のささやかな経験だけである。「どのステイタスにある人が、何のために働いているのか」をパターン化したことが、これから社会に出る学生の方々の参考になれば幸いである。最後に、下記参考文献から一番感銘を受けた言葉。「勇気、希望、忍耐。この三つを抱きつづけたやつだけが、自分の山を上りきれる。どれひとつが欠けても事は成就せんぞ」宮本輝『春の夢』
(参考文献)
※1)はこれから就職活動を、2)は転職活動をする人にオススメ
1)戸田智弘「働く理由−99の名言に学ぶシゴト論。」2007、ディスカヴァー・トゥエンティワン
2)山崎元「僕はこうやって11回転職に成功した」2002、文藝春秋

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