新聞購読が減っているのに凸版印刷がチラシで稼いでいる理由(ニコニコ)
既存の事業が成熟期を迎えた企業がさらにビジネスを拡大するためには、ざっくり言って、海外など新しいマーケットを開拓するか、これまでとはまるで異なる新規事業を立ち上げるかの2つだ。実際、「新規事業開発室」といった名称の部署がある会社は少なくないが、必ずしも成果が出ているとは言い難い。それはなぜだろうか。本特集では新規事業が成功するための秘けつを探る。凸版印刷がチラシで稼いでいる。チラシといっても新聞の折り込みチラシではない。「電子チラシ」を配信する事業が好調なのだ。サービス名は「Shufoo!(シュフー)」。自分が住む地域のスーパーなどのチラシをスマホやPCで閲覧できる。2010年から本格展開して、15年に事業を黒字化させた。
Shufoo!に掲載する企業数は3600社を突破(2018年2月末時点、以下同)。月間アクティブユーザー数(1カ月の間にサービスを1回以上利用した人数)は1000万人、月間ページビュー数(ページが開かれた回数)が3.7億PVという日本最大級の買い物情報デジタルメディアに成長した。黒字化を達成できたのは、赤字が続いても諦めずにコツコツと掲載企業の数を増やし、利用者の利便性を向上させ続けたおかげだ。サービス担当者にこれまでの道のりと苦労を聞いた。
まず、サービス概要について説明しよう。基本的な流れはこうだ。スーパーなどの企業がチラシをShufoo!に掲載する。ユーザーはShufoo!に自宅の住所を入力する。Shufoo!アプリを開くと近隣にあるスーパーなどのチラシがずらりと並ぶ。ユーザーはチラシを閲覧する。新聞の折り込みチラシを電子化しただけでなく、Shufoo!だけのチラシも存在する。ユーザーはShufoo!を無料で使える。チラシを掲載する企業は基本的にチラシの閲覧数に応じた料金を凸版印刷に支払う。掲載企業は小売業に限らない。食品メーカーやレンタルビデオチェーン店も商品やサービスの情報を発信している。ユーザーの7割超は女性だ。女性ユーザーのうち30〜40代が6割を占める。女性ユーザーの6割には子どもがいる。つまり、これまで新聞のチラシを熱心に読んでいた層がそのままスマホに移行したと考えられる。
●コツコツと掲載企業を増やしていった
現在のビジネスモデルが確立するまでには実は長い時間がかかっている。凸版印刷の山岸祥晃氏(現メディア事業推進本部長)が01年、社内ベンチャーの発表会でShufoo!のひな型となる事業案を発表した。その当時は採用されなかったが、山岸氏は諦めなかった。勤務地の大阪で「御社のチラシをホームページに掲載しましょう」と営業活動を展開した。担当する社員は5人程度。スキャンしたチラシの画像データを企業のホームページに掲載して料金をとるという地道なものだった。Shufoo!のサイトにもチラシは掲載していたが、掲載企業のホームページから読まれるほうが圧倒的に多かったという。本格的に展開をするようになったのは10年だ。掲載企業から「もっと新規のお客さんを店舗に呼びたいから、Shufoo!のサイトに集客してほしい」という声が高まってきた。企業のホームページを自分から閲覧するのは既存顧客だ。新規顧客を獲得するには、チラシをもっと多くの人に読んでもらいたいと掲載企業は考えていた。
本格的なインターネット時代が到来し、特定の消費者にしか届かない折り込みチラシではなく、誰でも読めるネットにチラシを掲載したい企業が今後増えることが見込まれた。掲載店舗数も順調に増えていた。Shufoo!のプロジェクトに関わる社員は数十人に増え、サービス開発とプロモーションのための予算が投入されるようになった。本格的に事業化してから黒字化するまでに5年を要することになるが、長期的に取り組めた背景にあったのは経営陣の強い期待があったからだという。
●チラシの掲載企業を増やすのに苦労した
Shufoo!が躍進した背景について、プロジェクトを統括するメディア事業推進本部メディアマーケティング部の亀卦川篤部長は「きちんとチラシが読まれていていることを理詰めで企業に説明してきたから」と解説する。チラシに限らず、企業が最も気にするのは「広告が消費者に届いているか?」ということだ。Shufoo!の掲載企業数を増やすには、Shufoo!にチラシを掲載するときちんと消費者に読んでもらえることを伝える必要がある。そこで同社は企業への説得材料として「チラシの成果を見える化する」「紙のチラシと比べたときの費用対効果を提示する」ことに取り組んだ。
まず、どの地域に住むユーザーがどのチラシをどのくらい読んだのかといった詳細な情報をリアルタイムでチラシ掲載企業と共有した。「チラシ効果を水増ししているのでは?」という疑念をなくするためだ。「チラシPV」と呼ぶ評価指標も導入した。消費者がスマホやPCの画面にチラシを完全に表示したり、チラシを拡大してタップしたりすることで1回閲覧したと見なすものだ。集客効果もアピールした。新聞の折り込みチラシを特定エリアに配布すると同時に、Shufoo!にも同じチラシを掲載する。来店した客に「どこでチラシを読みましたか?」というアンケートを実施する。すると、お客1人あたりを集客する効果が比較できる。
コストで情報を届けられることを企業にアピールしました」(亀掛川部長)。紙のチラシを消費者に届けるコストには、紙の印刷費や新聞販売店への手数料が含まれる。Shufoo!に掲載したほうが安く情報を消費者に届けられるだけでなく、費用対効果も高いことを説明したのだ。こういった戦略が奏功し、Shufoo!にチラシを掲載しようという企業の数が増加した。収益モデルは11年から完全に変更した。企業がチラシを掲載するたびに料金を支払うのではなく、チラシが閲覧される回数に応じて費用が発生する方式に変更した。既存クライアントからは反発もあったが、成果を見える化させることで納得してもらった。
●スマホの普及と新聞購読の減少が追い風に
外部環境の変化もShufoo!が15年に黒字化する原動力となった。1点目は、スマホユーザーの拡大だ。総務省の情報通信白書によると、スマホの個人保有率は11〜15年にかけて14.6%から53.1%にまで増加した。主要ユーザーである30〜40代に限っては90%弱だ。ユーザーがより手軽にチラシを読む環境が整った。2点目は新聞購読者数の減少だ。新聞通信調査会の「メディアに関する全国世論調査(2017年)」によると、「月ぎめで新聞をとっている」と回答した総数は13年には8割超だったが、17年には7割を割り込みそうになっている。20〜40代に至っては、減少幅はさらに大きくなっている。若い世代を中心に新聞が読まれなくなった結果、折り込みチラシの総量が減少した。チラシを新聞購読者以外に届けたい企業と、新聞を購読しないがスーパーの特売情報を知りたい消費者が増えることになった。
こういった戦略転換と外部環境の変化により、Shufoo!のサービスは15年以降も事業単体では黒字の状態が続いている。チラシや商品情報を掲載する企業が増え、情報量が豊富になり、ユーザーがShufoo!に集まるという好循環が生まれているためだ。Shufoo!はスマホの機能を生かした新サービスを次々と導入している。各店舗の売り場担当者や店長が特売情報を周辺住民に配信できる「ミニチラ」が一例だ。従来のチラシのようにチェーン本部が1週間前に一括で特売情報を発信するのではなく、タイムリーな情報配信が可能になる仕組みだ。
順調にみえるShufoo!のサービスだがリスクもある。Shufoo!が好調なのはチラシ掲載量が日本最大級というプラットフォームの地位を確立しているためだ。現在、企業が消費者に直接情報を届けるダイレクトマーケティングが広がっている。Shufoo!を通さない販促活動が本格的に普及すると、その地位は脅かされるかもしれない。消費者が集まるメディアとしての地位を維持し続けることができれば、Shufoo!はさらに成長を続けられるだろう。

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