すべて買い尽くした日銀、残された手段はあるか(WJ)
日銀の黒田総裁は一段の金利引き下げも可能だと主張している。経済成長とインフレ期待は不安定なようだ。経済学の教科書に載っているすべての政策を使い果たした中銀の当局者はどうすればいいのだろうか?米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)は近く利下げに踏み切る構えで、日銀は厳しい立場に置かれている。日銀はこれまで、利下げと国債買い入れをほぼ限界まで進めてきた。これは日本にとって問題だ。世界貿易の低迷や中国経済の減速に直面しているだけでなく、他国の中銀が利下げに動くことで、円に上昇圧力がかかってしまうためだ。円高に振れれば、日本企業が海外で稼ぐ利益が目減りし、輸出にも打撃が及ぶ恐れがある。
日銀にはまだ、威力は劣るが打てる手は残っている。例えば、低金利をさらに長い期間続ける意向を示すことなどが可能だ。黒田東彦日銀総裁は一段の金利引き下げも可能だと主張するが、国内の銀行はすでに利ざや縮小で悲鳴を上げており、さらなる引き下げはせいぜい微調整にとどまるだろう。日銀の見通しでは、向こう3年に2%の物価目標に届くとは想定しておらず、日銀自体もはや物価目標を達成できるとは確信していないようだ。
日銀の「長短金利操作(イールドカーブコントロール)」により、国債利回りは0%前後に張り付いており、2012〜2016年に行った巨額の国債買い入れを再開しても、効果は限られるだろう。しかも、日銀はすでに国債残高の半分近くを保有しており、日銀の政策は市場の取引をほぼ全滅させている。だが、日本経済が抱える問題は深く根ざしているという事実にもかかわらず、日本の経済政策担当者の組織的な保守主義により、こうした変化が起きる可能性は低い。最も簡単で、副作用が最も少ない措置は、安倍晋三首相と麻生太郎財務相が「アベノミクス」の第2の矢を張り替えることだ。つまり、景気刺激を狙った政府による積極的な財政政策の実施だ。
だが、2人は逆の方向に向かっているようだ。10月には、安倍氏は消費税増税という無謀な措置を実行に移す見通しだ。過去数十年にわたりインフレがほぼ存在していない状況下で、消費税を現行の8%から10%へと引き上げれば、消費者に極めて大きな影響をもたらす。前回消費税を引き上げた2014年には、日本経済は再びリセッション(景気後退)に陥った。先の参議院選挙で消費増税の実施を約束したこともあり、安倍氏が計画を撤回する公算は小さい。次に深刻な景気悪化が迫ってきた際には、日本は金融政策への過剰な負担を見直し、経済刺激策を準備すべきだ。

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