2010/9/2

日本語といふフィロソフィー  漱石の秋声論を解きつつ  日常 時事


私は文藝文学の使命とはその拠てたつ言語の器を究め知ることにあり出発点も帰結点もそれにつきると思ふ。つれて以前から気になつてゐたひとつだが。


嘗て夏目漱石は「あらくれ」評といふ形で徳田秋声の作を論じて現実其の儘を書いてゐて其処で彼の作品にはフィロソフィーがないなどと難じた。


読んで了ふと「御尤もです」といふ言葉はすぐ出るが「お蔭様で」といふ言葉は出ない。





現実其の物がフィロソフィーなら、それまでであるが、目の前に見せられた材料を圧搾するとかういふフィロソフィーになるといふ様な点は認めることが出来ぬ。フィロソフィーがなければ小説ではないなどといふのではない。又徳田氏はフィロソフィーを嫌つて居るのかも知れないが、さういふアイデアが氏の作物には欠けて居ることは事実である。


フィロソフィーといいひアイデアといふぐにやぐにやしたものいひは哲学なり理念なりの訳語が定着する以前の時期であらうから仕方ないとしても徳田坊ちゃんに対する夏目赤シャツの厭味にしか聞こえぬといつてはいひ過ぎであらうか。


秋声の文学は最近の健康飲料の謳ひ文句によくあるノンカロリー糖質オフの文学だと思へば済む。熱帯雨林の樹下の水は樹木があまりに急激に大量の水を吸ひ上げる為に全く養分を欠いてゐるさうだがその類と思へば却つて稀少価値を覚える。その上に亭亭繁茂するフィロソフィーなりアイデアなりの多種多様な枝葉のほど暗示するところあり、彼らをポジとすれば秋声はネガか。しかし視点を変へればポジとネガは逆転するところがあるであらう。


そこに自分等のフィロソフィーやらアイデアを汲み上げ現実其の儘を書いてゐてしかも「御尤もです」のみならず「お蔭様で」と思はせるものも多分に含んでゐるものとの信用が漱石を今日なほ群を抜いて愛読せられる作家たらしめてゐるのであらう。


しかし日本語あつての漱石であり、その逆はない。


その視点からすると彼が日本語にとつてまことに掛替への無い貢献をしたかとなると己名をなして日本語そのもののの帰趨については「後は野となれ」式のものではなかつたか。
経緯図にして語法語格の調整機能として考案せられた五十音図といふ方程式が「歴史的勘違ひ」により穴あきにされて無機質な羅列と一般に扱ひそれに疑念呈する者を官の権威と衆愚の惰性と無関心を背景に「ムズカシイ」「ワカラナイ」を繰り返し曖昧な微笑とともに受け流す輩に何度も出会したが、これ彼一時は兌換券の肖像に採用されるに真に値するものを残してゐたならば決して起こり得ぬぬことであつた。


即ち秋声にはフィロソフィーがないと漱石は難ずるが、日本語とは五十音経緯図といふ人類他言語に類を見ぬ字母構成そのものが既にフィロソフィーなのである。その点に無知なるは両者同断なればまさしくこれ他の鼻糞を云々する目糞の類である。


官の庇護振り切りて彼言葉の為になさねばならぬもの何ありし


と私が嘗て詠んだはその意味である。自分の得手勝手で新聞社に落籍されて行つた者を揉み手して国家的顕彰の場に迎へるなどは国も随分と不見転なと顰蹙したものだ。むしろ
一方の雄たる鷗外の方こそふさはしいかと思つたが、その仮名遣意見は西洋のオーソドキシーの受け売りでありかつ冒頭にいきなり軍の威光をちらつかせてその場を抑へたは後になると逆効果であつた。「歴史的勘違ひ」を制定した徒党はこれに戦後民主主義の象徴たるかのごとき装ひをさせたのである。のみならず軍医としての彼が師説墨守のあまり実験を無視して脚気防止の為の兵食への麦飯混入拒み続けて兵員に多大の損耗を及ぼした無能漢であつたとの説はもはや動かしがたい。


すべては「経緯図」といふ仮名構成に加へて、無機質な表記部品の羅列たるアルファベット等と全く材質を異にして仮名字母それぞれが各固に意味生命を宿す「品詞」でもあるといふ即ち「有機的細胞組織」ですらあるといふ「現実」に根ざして日本語の帰趨は定められなければならない。福田国語教室にはアルファベットで単音にして品詞定義あるは不定冠詞と一人称代名詞のみとの言及はあるものの未だその意味を掘り下げて考へられてはゐないやうである。


ついては五十音図の方程式構造と、その種字の選択を一の暗号文として訓読したものを以前にこのブログに送つて置いた故拙文を読んで多少とも関心もたれた向きは参照いただければよい。

和といふことを詠める御製ならびに應製
http://blogs.yahoo.co.jp/jungleroad91/25610049.html
アイウエオの思想「中庸」
http://blogs.yahoo.co.jp/jungleroad91/26022769.html
0



コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ