「『観客数水増し』が繰り返されたのはクラブの抱える闇に起因するのか !?」
サッカー
今回報道されたV・ファーレン長崎による『観客数水増し』の問題。Jリーグからは始末書によるけん責と制裁金300万円からなる処分が科せられました。
かつてJリーグの根幹を揺るがす粉飾事件とされた大宮アルディージャによる観客数水増しを既知の事実として認識していたはずのクラブ幹部によって繰り返された愚行の裏にJリーグクラブが内在させている闇の部分があると感じる次第です。
では、2010年に発覚した大宮アルディージャによる「観客数水増し」事件とはどのようなものだったか? 当時のニュースを引用しながら振り返って見たいと思います。
Jリーグの理念揺るがす大宮の「観客数水増し」問題
サッカージャーナリスト 大住良之
2010/11/20 7:00
※以下、引用です。
Jリーグ1部(J1)の大宮アルディージャが過去4年間にわたって入場者数を「水増し」して発表していた問題で、Jリーグの大東和美チェアマンは16日、けん責処分(始末書提出)とともに制裁金2000万円を科すと発表した。2000万円の制裁金は2008年の浦和―G大阪戦でサポーター同士のトラブルで浦和に科せられた最高額と並ぶもの。この裁定を受け、大宮は30日以内に制裁金を支払わなければならなくなった。
NACK5スタジアム完成とともに水増しが始まった
大宮のホームスタジアムは、さいたま市大宮区(旧大宮市)にあるさいたま市所有の「NACK5スタジアム大宮」である。かつては「埼玉県営大宮公園サッカー場」と呼ばれていた。
1960年に建設され、大改装されて東京オリンピックのサッカー競技で使用された。浦和レッズも一時準ホームスタジアムとして使用したことのある球技専用競技場だが、その後、J2の大宮がホームに。その大宮が05年にJ1に昇格したこともあって大改装が決定し、2007年11月11日に大分トリニータを迎えて新装のスタジアム(収容1万5300人)の初戦が戦われた。
「水増し」が始まったのは、まさにその試合だった。
スタンドは立錐の余地もないほど埋まっていた
前売りに出した1万4530枚のチケットは完売していた。ピッチから見上げると、スタンドは立錐(りっすい)の余地もないほど埋まっていた。
だが当日入場ゲートを通過してカウントされた観客を総計すると、1万1725人にしかならなかった。当日、新スタジアム落成を祝うために試合前にいろいろなイベントを実施し、選手の家族も多数招待されていた。
Jリーグの基準では入場無料のイベント参会者や選手家族がスタンドに入って観戦した場合も、「入場者」に含めてよいことになっている。ただしその場合には、別個の入場ゲートを設置し、人数をしっかりカウントしなければならない。アルディージャはそれを怠り、イベント参加者などに「そのままスタンドに入ってください」と誘導していたという。
運営に当たっていたクラブの幹部2名は、ゲートでカウントされていない人びとを「総合的に勘案」して、試合の後半半ばに入場者数を「1万4752人」と発表した。
最初は「悪意」はなかった
Jリーグは07年に「イレブンミリオンプロジェクト」をスタートした。3年後の10年にJ1、J2を含めた全観客数を1100万人にしようというキャンペーンだった。前年の06年には約839万人だったから、約30%増という目標である。その目標に従ってクラブごとの目標も設定されたが、そのときにそれまであいまいだった「入場者数」についての定義が明確にされている。
大宮の最初の間違いは「幹部2名」がその定義を知らず、規定の手順を踏まずにイベント参加者などを「入場」させたうえに、推定で上乗せしてしまったことにあった。「悪意」があったわけではないようだ。
だが、このようなことは一度で済まないのが世の常である。「幹部2名」は、その後も「見た目の満員感」に合わせて入場者数の上乗せを繰り返していった。
変化していった「数字操作」の意図
その一方で、クラブにはイレブンミリオンプロジェクトに従い、09年までに「年間入場者総数を30万人にする」という目標があった。08年、09年になると、入場者数集計を担当していた「幹部2名」の「数字操作」も意味が次第に変化し、その目標に近づけることが目的になっていく。
「目標が未達成になった場合には、支援の縮小やサポーター離れ等、クラブにとっての不利益が生じることを両名が懸念し、入場者の上積みを行ってまいりました」
10月19日に発表された大宮による「調査結果のご報告」には、このように書かれている。「支援の縮小」とは、言うまでもなく「スポンサー離れ」ということだ。
浦和サポーターの疑念から明らかに
こうして積み上げてきた「水増し」は07年11月11日以後の全ホームゲーム、総計58試合で11万1737人となった。
その最後の試合は今年10月2日のJ1第25節、浦和レッズ戦。「さいたまダービー」ということで多数の入場者が見込まれたため、6万3700人収容の埼玉スタジアムで開催された。同じさいたま市内にあるが、もっぱらレッズのホームとして使われているスタジアムだ。観客数は3万3660人と発表された。
疑念をもったのはレッズのサポーターたちだった。前節、レッズは新潟を迎えて戦ったが、入場者は3万1973人と発表されていた。スタンドの空席はそれより多い印象だったのに、2000人近くも上回った発表に驚いたのだ。
その疑念からうわさが広がり、Jリーグが大宮に調査を求めたところ、過去4年間にわたる「水増し」が明らかになったのだった。
他のクラブの「問題なし」の回答とは?
試合ごとの数字まで明確になった「水増し」の数字は、すべて大宮の「自己申告」によるものだ。この事件を受けてJリーグは他の全36クラブにも観客数が正確に発表されているか調査を命じたが、あくまで各クラブの自主的な調査であり、証拠を求めているわけではない。
実は、発表されている「入場者数」は、その場限りの入場ゲートにおけるカウントを元にしたもので、後に証明できるものではないからだ。
全36クラブが出した「問題なし」の回答は「全入場ゲートできちんとカウントし、それを集計し、そのままの数字を発表する態勢が整えられている」という意味なのである。
Jリーグの入場者数の定義
Jリーグが定めている「入場者数」の定義は以下の通りである。
1.スタジアムに来場した観客数。チケット販売数ではない。半券(入場ゲートでもぎ取るチケットの一部)の数でもない。
2.チケットが不要な未就学児童も人数に入るため、入場口でのカウントによる。
3.車いす観戦者、そのヘルパーもそれぞれ対象とする。
4.選手、審判員、クラブスタッフ、その他の運営関係者、競技場スタッフ、売店関係者等、関係者は除外する。
5.VIP席での観客数は人数に入るが、両チーム役員は除外する。
6.記者席の報道関係者、グラウンドのカメラマンは除外する。
後で検証することはできない
定義としては非常に明確であり、また「試合を見て楽しむ人の数」という考え方も評価に値する。02年の日韓大会以来、ワールドカップでは「SOLD OUT」という訳の分からない発表が行われ、実際にスタジアムに何人訪れたか分からなくなっているから、Jリーグの基準ははるかに優れている。
ただ問題は「ゲートでのカウント」が、アルバイトによるカウンターの手押しで行われているということだ。訓練はされているだろうが、当然カウント間違いは起こる。そしてチケットを持たない「未就学児」のカウントは、その場限りのもので、後に検証することができないのだ。
さらに、集計作業、それを発表する段階で、間違い、あるいは人為的な操作がなされてしまう危険性は否定することができない。
「観客数水増し」は日常茶飯事
かつて日本のスポーツでは入場者実数など発表されたことがなく、主催者発表の概数だけだった。景気づけのため、プライドを守るため、あるいは何らかの利益をはかるため、その数字が大幅に水増しされていることは日常茶飯事だった。
今でこそプロ野球も実数発表になっているが、かつては巨人が東京ドームでの主催試合の観客数を毎試合「5万6000人」と発表していた。実際には座席が約4万6000しかないのにもかかわらずだ。アメリカンフットボールで国立競技場(当時の座席数は6万1000)に8万人が入ったと発表され、スポーツ紙の1面を飾ったこともあった。
サッカーでも、日本サッカーリーグ(1965〜1992年)当時には、運営担当者がスタンドを見上げて「きょうは3000人かな」などと決めていた。天皇杯全日本選手権の決勝戦では、チケットをもった入場者が2万人に満たなくても、「決勝だから」「正月だから」と、3万人を超す数字が発表されるのが常だった。
実数発表の根本理念
だがJリーグは、スタートするに当たって敢然と「実数発表」に踏み切った。
「お客さま一人ひとりを大切にしなければ、Jリーグに未来はない」と初代チェアマンの川淵三郎さんが考えたからだ。
概数で「2万5000人」という発表だったら、「自分が行かなくても数字は変わらないのではないか」とファンは感じてしまうだろう。しかし、実数で例えば「1万8956人」という発表を見たら、「自分が行かなければ、この数字は1万8955人になっていたんだな」と感じることができる。
単なる数字ではない
入場者数は単なる数字ではない。Jリーグの歴史の重要な一部だ。「総体としての観客」ではなく「一人ひとりのお客様」を歴史として積み上げようというのが、「実数発表」の根本理念だったのだ。
同時に、実数を発表していかなければ、はたして実際に観客数が増えているのか、減っているのか分からないではないか。
こうした考えの下に、Jリーグは92年9月5日、本格スタートの前年に行われた最初の公式大会、「ナビスコ杯」の第1節から実数発表を実行したのだ。Jリーグとサッカーが爆発的なブームを迎えるのは、この年の年末あたりから。実数発表に踏み切ったのは、まだ「プロサッカー」が海のものとも山のものともつかぬ状況下だった。
大宮の観客数水増しは、こうした根本理念を理解していなかった結果にほかならない。Jリーグにとっては、その存立に関わる重大な違反なのだ。
初心を問い直す時期
大宮は当該の「幹部2名」を解任、渡辺誠吾社長も辞任することになった。
だが、これですべて終わったわけではない。Jリーグと全37のクラブの全役員、全スタッフは、リーグの根本理念を改めて思い起こし、肝に銘じて業務にあたらなければならない。
来年、Jリーグは社団法人創立20周年を迎える。そして再来年にはリーグも20シーズン目に入る。当初10クラブだったリーグは、いまやその4倍近い規模に達しようとしている。「初心」を問い直す絶好の時期だ。
つまり、この「大宮事件」を肝に銘じたはずのクラブ役員の中から今回の「長崎事件」が起きたことが問題を複雑にさせる闇の存在を感じさせます。
ただ、今回のV・ファーレン長崎による粉飾事件に対する制裁金が大宮の「2,000万円」に対して「300万円」と決定されたのか? これは大宮事件が外部からの指摘を受けたメディア報道から明るみに出たのに対して、長崎事件が内部告発による発覚であったという違いによります。
その報道の一つを引用します。
内部告発で発覚したJ2長崎の観客数水増し事件はなぜ起きたのか?
7/26(水) 5:00配信
Jリーグの村井満チェアマンは25日、リーグ戦における有料入場者数を水増し発表していたJ2のV・ファーレン長崎に対して、始末書によるけん責と制裁金300万円からなる処分を科したと発表した。
チェアマンの諮問機関である裁定委員会の答申を受けた村井チェアマンが制裁処分を決定し、25日に長崎側へ通知。同日午後に都内で開催されたJリーグ理事会でも報告された。
長崎の調査によれば、2015シーズンの開幕戦から今年4月2日に行われた第6節まで、ホームのトランスコスモススタジアム長崎で開催されたリーグ戦46試合のうち45試合において最少で81人、最大では1400人を上乗せして発表。実際の入場者数との差分は2万4233人に達し、大半が試合運営関連スタッフやチケットをもたない無料入場者がカウントされていたという。
産声をあげる前年の1992年秋に、前哨戦として開催されたヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)からJリーグは有料入場者数の「実数発表」を実施。一の位までを正確にカウントして、後半途中にスタジアム内でアナウンスしてきた。
アマチュアだった前身の日本リーグ時代は、ホームチームの運営担当者がスタンドを見渡しながら、「今日はこれくらいかな」と入場者数を決めることが少なくなかった。こうした習慣を一変させたのは、初代チェアマンに就任した川淵三郎氏のひと言だった。
「スタジアムへ足を運んでくださるお客様一人ひとりを大切にしなければ、Jリーグに未来はない」
規約にも「実数発表」を明文化し、違反した場合の罰則も厳格に設けられた。プロ化という新たな歴史の扉を開くにあたり、ファンやサポーターを最も大切にした結果としてリーグ及びクラブ運営の公正性や透明性が保たれ、スポンサー獲得にあたって企業側の信頼を得てきた歴史がある。
2010年10月にはJ1大宮アルディージャが過去3年間にわたって、11万人を超える入場者数を水増ししていたことが発覚。Jリーグの大東和美チェアマンはけん責と制裁金2000万円を科し、大宮の渡辺誠吾社長が辞任。粉飾に関わっていたクラブ幹部2人も解任された。
大宮の一件は外部からの指摘と新聞報道が先行した結果、他のクラブを含めたリーグ全体にも疑いの目が向けられかねない状況を招いた。翻って今回は水増しされた人数が約5分の1であり、最終的には長崎による内部調査に基づく自己申告だったこともあり、制裁金300万円が裁定委員会から諮られた。
いずれにしても、Jリーグが最もタブー視する不正には変わりがない。約7年の歳月をへて、有料入場者数の水増し行為はなぜ再発したのか。背景にはJFLからJ2に昇格した2013シーズン以来、観客動員で苦戦を強いられてきた長崎の歴史があると言っていい。
長崎市ではなく諫早市にあるトランスコスモススタジアム長崎は交通アクセスが不便で、たとえばJR長崎駅からバスを利用した場合、最寄りの停留所まで1時間を要する。JR線でも諫早駅まで30分、そこからバスと徒歩でさらに10分、徒歩だけだと実に25分も要する。
近隣の県にもJクラブが存在することと相まって、必然的に入場料収入もシーズンを重ねるごとに激減する。開示されている2016年度のそれはJ2ワースト2位の7400万円で、初めてJ2を戦い、6位に食い込んだ2013年度の1億3200万円から実に5800万円減となっている。
観客数が減れば、スタジアム内に看板広告を出したいと望む企業も減る。広告料収入は2013年度の2億4800万円から翌年度は期待値込みで5億200万円に増えたが、以降は4億4000万円、3億5900万円と同じく激減傾向にある。
それでもJ1昇格を果たすべく、支出の柱となるチーム人件費は2016年度までの過去3年で3億3500万円、3億4800万円、3億2200万円とほぼ横ばいを続けている。それでいて収入が減少していく非情な現実に、すでに退職した運営担当者は少なからず重圧を感じていたはずだ。
「一般論で申し上げれば、入場者数を多く見せたいという上の意向があったと。そういったものを斟酌した結果として暗黙のプレッシャーを感じて、そこへ入場者数算定ルールを勘違いしていたことも含めて、このような行為に及んだと運営担当者レベルでは話しています」
意図的な改ざんはなかったと結論づけた、Jリーグ経営本部の鈴木正雄本部長が言及した“上”とは旧経営陣のこと。2015年度の当期純利益が200万円の黒字だった長崎は、一転して2016年度には1億3800万円の大幅かつ不可解な赤字を計上。経営問題に発展するなかで昨年末から多くの内部告発がJリーグ側に寄せられた。
Jリーグは旧経営陣にまず自浄を促したが、プロセスがおぼつかなかったこともあり、年明けから直接介入することを決定。調査を依頼した弁護士事務所にコンプライアンス相談窓口も設置したところ、チーム内の人間と思われる人物が入場者数の水増しを告発してきた。
そして、開幕まで1ヶ月を切った段階で池ノ上俊一社長、岩本文昭専務、服部順一GMが電撃退任。紆余曲折をへた末に、筆頭株主の通信販売大手ジャパネットホールディングス(本社・長崎県佐世保市)が長崎を子会社化。4月25日に創業者の高田明氏が社長に就任し、経営再建を進めてきた。
テレビCMへの出演などでお茶の間でも有名な高田新社長は、就任直後にJリーグによる調査結果を受け取り、そのなかでも特に問題視された入場者数の算定方式の是正にすぐ対応。過去2年にわたって差分をも精査して報告した姿勢に、理事会後の記者会見で村井チェアマンはこう言及している。
「結果として不正確な数字が計上されたことは非常に残念ですが、新しい経営陣が健全化へ向けて全力を尽くされているなかで、自ら是正の調査が行われたと認識しています」
元日本代表FWの高木琢也監督のもと、4年間で2度もJ1昇格プレーオフへ進出した長崎は今シーズンも4位と奮闘している。悲願のJ1昇格を目指したピッチ内だけでなく、旧経営陣のもとで溜まった膿を出し切り、経営再建と信頼回復を目指すピッチ外の戦いも続く。
(文責・藤江直人/スポーツライター)
杜撰な経営で窮地に陥ったクラブを救ったジャパネット。高田社長の誠実な対処から明るみに出ることになった今回の長崎水増し事件。背景にあるクラブの闇というのは、親会社を持たないJクラブ全体が抱えているスポンサー収入に対する一喜一憂であります。しかも、会場アクセスに恵まれていない多くの地方クラブには、禁断の果実に手を伸ばしてしまいたい誘惑は常に存在しています。幸いなことにCスタへのアクセスはJ1を含めてもかなり恵まれています。いや、トップクラスと言っても良いでしょう。新幹線の最寄り駅から徒歩圏内に競技場を有するクラブというのは全国的にも片手に満たない状況です。恵まれているからこそ、経営努力を怠ればいつこういった事態に陥るかは想定できません。
これを“他山の石”として自らの問題として感じ、襟を正せるクラブにのみ未来が訪れるのでしょう。それはクラブの役員やスタッフのみならず、我々サポーターにも求められる非常に思い使命であると考えます。10番ゲート辺りで勘違いして愚行を繰り返す人々も、当初はクラブが好きでその後押しをしたいがために応援してきたはずです。スタジアムに集う者に違いは微塵もありません。早急に勘違いに気付いて初心を思い出してほしい。「〇〇は▲ねばいい」などとSNSにアップして自爆するアホな連中を生み出す土壌こそ、多くの勘違いの集約であることを肝に銘じて居住まいを正すことは無駄な努力ではありません。岡山の未来を成長させるのも殲滅させるのも、岡山を応援する一人一人が起こす行動であるということは厳然とした事実です。そのことを意識して行動すること。大事な地元クラブの未来を閉ざしてしまわない為に。
対戦相手にマイナス情報があると負けるという「ファジあるある」については、今回は回避したいものですね。
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